目次
慰謝料請求できる4つのケースと相場
ではまず、慰謝料を請求できる条件から見ていきましょう。
そもそも慰謝料は、相手の不法行為によって精神的損害を受けたときに、その過失の大きさに応じて支払われる損害賠償金です。
離婚に置き換えれば、以下のようなケースが当てはまります。
不貞行為:100万円〜500万円

不貞行為による慰謝料の相場は100万円〜500万円です。
浮気・不倫による損害が大きいほど慰謝料も高くなります。
不貞行為とは法律用語で「配偶者としての貞操義務の不履行」を意味し、わかりやすくいえば、不倫や浮気を指します。
この不貞行為とは、婚姻関係のある男女のどちらかが配偶者以外の異性と肉体関係をもったことをいいます。
具体的に、どういった行動が不貞行為に当たるのかというと、まずメールのやりとりや食事、映画を見に行ったり、一緒に出かけたりすることは不貞行為に該当しません。
また、キスだけで不貞行為と決めつけて慰謝料を請求することも難しいでしょう。
中には風俗に行き、他の異性と性行為をしたため慰謝料請求をしたいと考えている方もいるかもしれませんが、風俗に1回足を運んだだけでは不貞行為にはなりません。
ただし、何度注意しても足を運んでしまうようなら、慰謝料請求できる場合があります。
また慰謝料を請求するためには、不貞行為を証明する証拠が必要となります。
具体的には以下のようなものです。
不貞行為の証拠になるもの
- 不貞行為が推測できるもの
(電話、メール、SNSなど) - 不貞行為を証明できる文章
- ラブホテルに入る動画や写真
- ラブホテルの領収書
- 探偵の報告書
「実際に目撃した」といったことがない限り、肉体関係の証明は難しいものです。
ですので「そう推測するに充分な証拠」があれば証拠とみなされます。
たとえば、異性とラブホテルに入った場合が当てはまるでしょう。
なぜなら一般的にラブホテルはセックスをするための施設と考えられているからです。
一方でビジネスホテルで、1度だけ、短時間、一緒に過ごしたようなケースでは、証拠能力が低いと判断されてもおかしくはありません。
不貞行為を証明するためには異性と過ごした回数や時間もポイントになるのです。
最近はスマホやパソコン、アプリでの会話から不貞行為が発覚する機会が増えています。
しかし、一緒に写っている写真やメールだけでは異性と連絡を取っている証拠にはなっても、肉体関係があるかどうかを判断できません。
最低でも不貞行為があったと断定できる文章が必要です。
他にも、一人暮らしの家に入り長時間滞在している状態なども、肉体関係があったものとして扱われるため、有力な証拠になります。

不貞行為の証拠は、具体性だけでなく回数や時間が証明できるものでなくてはなりません。
そもそも不倫は隠れて行うもの。相手もバレないように、それなりに注意を払っているでしょう。
そんな中で相手に気づかれぬよう、決定的な証拠を収集するのは個人では限界があります。
また証拠集めの過程であなた自身が夢中になりすぎ、行き過ぎた行動をとってしまうかもしれません。
そのため、調査のプロである探偵事務所に依頼することも選択肢の一つです。
DVやモラハラ:50万円~500万円

DVやモラハラ・パワハラによる慰謝料の相場は50万円~500万円です。
※損害が大きいほど慰謝料も高くなります。
「配偶者から殴る・蹴るといった暴行を受けた」「ひどい暴言を浴びた」など、離婚の理由がDVやモラハラ、パワハラでも慰謝料を請求できます。
しかし、DVやモラハラも不貞行為と同じように慰謝料請求前に証拠の提出が必要となります。
慰謝料の算出に重視されるのは、DV・モラハラの回数や頻度、期間、被害者に落ち度があったか、怪我をした場合はその程度、また婚姻期間の長さや経済的に自立できない子どもがいるかも関係してきます。
DVの場合は病院の通院記録や怪我の写真などが重要な証拠になると思われがちですが、日時や場所、暴力の内容が証明できれば日記などもきちんとした証拠になります。
モラハラの場合は音声の録音や、LINEなどでのやりとりや発言が証拠となるので、記録を残しておきましょう。
悪意の遺棄:50万円~500万円

悪意の遺棄による慰謝料の相場は50万円~500万円です。
※損害が大きいほど慰謝料も高くなります。
悪意の遺棄とは、婚姻関係にある夫婦間の義務である「同居の義務」「協力義務」「扶助の義務」に違反をした場合を指します。
民法752条でも、「夫婦は同居し、互いに協力、扶助し合わなければならない」という規定があり、夫婦になった以上これらの義務があると考えられています。
悪意の遺棄と認められる行為
- 理由のない別居
- 生活費を入れない
- 健康なのに働かない
- 専業主婦(主夫)にもかかわらず家事を放棄する
- 単身赴任中で生活費を入れなくなった
などが悪意の遺棄に該当し、慰謝料請求が可能です。
そのため、生活費は入れているものの配偶者以外の異性の自宅で生活したり、ギャンブル依存によって金銭感覚が合わなかったりする場合も、悪意の遺棄とされる可能性が高いでしょう。
これらを証明するためには別居先の住所や、生活費の振込が途絶えた通帳の記録などが必要となります。
性行為の拒否:0円〜100万円

性行為の拒否による慰謝料の相場は0円~100万円です。 ※損害が大きいほど慰謝料も高くなります。
慰謝料請求の中でも難易度が高いのが性行為の拒否、いわゆるセックスレスです。
他の理由に比べて証明することが難しくなりますが、以下のような場合は慰謝料請求ができる可能性があります。
性行為の拒否で慰謝料請求できるケース
- 3年以上性行為がない
- 結婚してから全く性行為がない
- 相手が高収入で自分が少なく、セックスレスである
セックスレスでの請求は、これらの他に「不貞行為に及んだ」など他の要因が重なるケースが多いです。
しかし、これらを証明させるにはセックスレスであることを証明できる何かが必要となります。
セックスレスの悩みなどが綴られた日記などが、最も有効な証拠となるでしょう。
ただし日記は、トラブル時だけでは相手から「でっちあげだ」と反論されるおそれがあるため、毎日つけることがポイントです。
また、双方の戸籍謄本と源泉徴収票も用意する必要があります。
慰謝料の請求方法
慰謝料の請求はこのような方法で行います。
- 話し合い
- 慰謝料請求調停
- 慰謝料請求審判
交渉など話し合いによって和解できれば主張が伝わりやすく、スムーズな請求が可能です。
しかし、示談が難しいと判断された場合は裁判所での調停や審判という方法に進んでいきます。
なお、慰謝料請求のみであれば調停を経ずに裁判所に訴訟を提起することもでき、その方が一般的となっています。
話し合いを行い、相手に合意してもらう
最初は話し合いによって慰謝料の金額や支払い方法を決めていきます。
先ほど慰謝料の請求ができる条件と相場についてご紹介しましたが、話し合いで相手との合意が得られれば、相場よりも高く請求することは可能です。事前に証拠を揃えておくと有利に話し合いを進められるでしょう。
とはいえ、相手がそう簡単に認めるとは限りませんし、また、これまでの経緯を考えれば、冷静な話し合い自体が難しいかもしれません。
感情的になりすぎて相場にそぐわない法外な慰謝料を請求してしまっては、相手に付け入るスキを与えてしまう可能性があります。
そこで、直接の話し合いが難しい場合には書面でやり取りをする、という方法もあります。
まずは、法的な証拠が残る内容証明郵便で、以下を記載し相手先に送ります。
内容証明郵便に記載する内容
- 精神的苦痛を受けた事実
- 慰謝料を請求したい旨
- 請求する金額
内容証明郵便とは、郵便局員が文書の内容を確認して「誰が、いつ、どのような内容か?」を証明する郵便です。
「言った/言わない」の水掛け論を防止できるだけでなく、「期限までに請求に応じない場合は法的な措置をとる」旨を記載しておくと、相手に心理的圧迫を加え、支払いの実現可能性がぐっと高くなります。
ここでまとまらなかった場合は調停に移行しますが、まとまれば公正証書を作成し、捺印を押してもらいます。
慰謝料請求調停という方法もある

調停では相手と直接交渉するのではなく、家庭裁判所が選出した調停委員が仲介してもらえる分、直接対峙するよりも冷静な話し合いが可能です。
調停は、家庭裁判所へ調停の申し立てをすることで行えます。
必要な書類は以下のとおりです。
調停の申し立てに必要な書類
- 裁判所もしくはHPでダウンロードした申立書
- 収入印紙1,200円分
- 郵便切手
- 申立人の印鑑や戸籍謄本
- 相手の戸籍謄本
調停にかかる費用は、手数料や各種書類の取り寄せ代金を含めても3,000円程度です。
調停でお互いが合意できなければ、調停は不成立となり、最後は裁判所の判断に委ねられます。
調停が決裂した場合は裁判に

調停で合意に至らない場合は、離婚訴訟を家庭裁判所に提起して判決によって強制的に慰謝料を決めることになります。
裁判ですので、法廷で裁判官に自身が受けた損害についての尋問が行われます。
たとえば相手の不貞行為の内容、暴力の程度、期間、それによりどれ位の精神的、肉体的な損害が発生したかなど、証言しなくてはなりません。
裁判所は、証拠と法に基づいて慰謝料の請求や金額が妥当か否かを判断します。
自ら証言台に立つのは可能ですが、どれだけコミュニケーションの得意な人でも「法廷で証言する」ことはまるで別次元です。
どれだけ正当な主張であっても、裁判所独特の雰囲気からうまく証言できずに、裁判官に伝わらない可能性があります。
したがって裁判に発展した時点で弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば訴訟代理人として手続きはもちろん、過去の判例や法、また相手の不貞行為やDV等の証拠に基づいた証言を行い、依頼者にとって有利な判決に導かれるように努力してくれでしょう。
決まった条件は公正証書に起こし、公証役場に提出する

当事者同士の話し合いで合意が得られれば、協議した内容を公正証書に記しておきましょう。
公正証書とは公証人が作成する法的効力を持つ公文書で、各地区の公証役場にて手続きできます。
法律の専門家(弁護士、司法書士、行政書士)などに依頼すれば、作成手続きを代行してくれます。
公正証書は法的効力が非常に強いため、相手が約束を守らない時は、相手の財産や給料を差し押さえることができます。そのため確実に慰謝料が受け取れるようになります。
公正証書作成には、取り決めの内容によって費用がかかってきます。
慰謝料の金額 | 公正証書の作成費用 |
---|---|
100万以下 | 5,000円 |
200万以下 | 7000円 |
500万以下 | 11,000円 |
1000万以下 | 17,000円 |
3000万以下 | 23,000円 |
5,000万以下 | 29,000円 |
1億以下 | 43,000円 |
※証書の枚数による加算があり、4枚以上(横書きの場合は3枚)を超える場合は1枚超えるごとに250円加算されます。
謄本交付手数料として、公正証書の謄本交付を希望する場合1枚につき250円かかってきます。
公正証書作成には事前に電話予約が必要です。
公証役場には、身分確認書類や印鑑、必要書類を持参して当事者、つまり夫婦揃って行かなければいけません。
弁護士に依頼すれば代理で出席してくれます。
公正証書作成後は当事者と共に確認し、内容に間違いがなければ公正証書に公証人と参加者の署名・押印を行います。
原本は公証人が保存、正本を受け取る側、謄本は支払う側に交付します。
離婚後に慰謝料を請求することはできる?

離婚する際には、特に慰謝料に関する取り決めを行わなかったが、離婚後になって元配偶者の不貞行為が発覚した場合など、離婚後に慰謝料を請求できるのか不安に思う方もいるでしょう。
離婚して数年経ってからも、慰謝料の請求は可能です。
離婚して一定の期間が請求してからであれば、先に紹介した慰謝料を請求できる条件の他に以下のようなケースでは慰謝料が請求できません。
慰謝料が請求できないケース
- 公正証書に「金銭の請求を行わない」旨の記載がある
- 離婚後3年経過している
慰謝料の時効については、こちらで詳しく解説しています。
もちろん、離婚後に慰謝料を請求する場合でも証拠は必要になりますし、相手の住所や勤務先も把握しておくなど、離婚時に請求するよりもハードルが高いと言わざるをえません。
調査については探偵事務所などの専門家に依頼することをおすすめします。