弁護士コラム

2回目の自己破産はできるの?

皆様、こんにちは。弁護士の時光 祥大(ときみつ しょうた)です。
2015年に弁護士登録をして以来、自己破産を含め債務整理を中心に活動しております。
債務整理に従事した約10年のキャリアにおいて、ご相談者様からよくいただく質問の中から、今回1つ、解説をしていきたいと思います。

テーマは、『2回目の自己破産はできるのか?』です。

例えば、

「10年前に一度自己破産したのに、難病になってしまってまた借金してしまった…」
「もう二度と自己破産なんてしないと誓ったのに、勤務先が倒産してしまって、返済ができなくなってしまった…」

こういった事情から、2回目の自己破産ができるのかどうか、不安を抱えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。もしかしたら、1回目の自己破産のとき裁判官から「再度の自己破産はできないと思った方がいいですよ!」と諭された方もいるかもしれません。
このコラムでは、そういった不安や疑問を解消していきたいと思います。

1 2回目の自己破産は『7年経っているか』が最初の分かれ道

2回目の自己破産ができるかの最初の分かれ道は、前回の自己破産から7年経過しているかです。

(1)なぜ7年なのか

なぜ7年かというと、破産法には、前回の自己破産から7年以内の再度の破産は原則できない、と規定されているからです。
正確に説明すると、破産法252条1項10号イにより、「(前回の自己破産の)免責許可の決定の確定の日」から「7年以内に免責許可の申立てがあった」には、原則として免責の許可ができないことになっているからです。

【参考条文】
破産法第二百五十二条
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
(中略)
十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
(省略)

≪Point:自己破産『できる』ってどういう意味?≫

自己破産できる、とよく表現されますが、意味するところは、裁判官から免責許可をもらうことができる、です。
厳密には、自己破産手続きと、返済免除の許可をもらう免責許可の手続きとは別の手続きです。
ただし、個人の方が自己破産をする、ほぼ唯一かつ最大の目的は、免責許可をもらって返済の苦しさから解放されることです。免責許可をもらうことができないのであれば、そもそも自己破産手続きを進める意味はありません。
このため、自己破産できるとは、裁判官から免責許可をもらうことができる、という意味で使われています。

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(2)7年間の開始と終わり

7年間のカウントがスタートするのは、「免責許可の決定が確定した日」からです。免責確定した日、と省略されて言われることも多いです。
自己破産手続きをすると、免責許可決定をしたとの通知書が裁判所から発行されます。その通知書に書かれた日付から1ヵ月程度すると確定する、と考えていただくと簡便です。

7年以内かの判断日は、2回目の自己破産の「免責許可の申立て」をした日です。なお、免責許可の申立てと、自己破産の申立て(破産手続き開始の申立て)とは同時に行うことはほとんどなので、自己破産の申立てをした日、つまり自己破産したいとの書類を裁判所に提出した日、と同じ日です。
支払いができなくなった日や、弁護士に相談した日ではありません。

≪Point:もう少しで7年経つ場合は?≫

7年以内かの判断日は、2回目の自己破産の申立てをした日です。例えば、あと1か月だけ待てば7年経つ場合は、少し申立てを遅らせるのも手段かもしれません。

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(3)前回の自己破産から7年以内-原則できない

前回の自己破産から7年経っていないときは、破産法の条文に正面からぶつかるため、原則として2回目の自己破産をすることができません。
ただし、負債原因によっては例外的に認められることもあります。詳しい説明はこのあとしていきます。

(4)前回の自己破産から7年以上-原則できる

前回の自己破産から7年以上経っているときは、前回の自己破産だけを理由に自己破産ができなくなることはありません。このため、原則として2回目の自己破産をすることはできます。
ただし、負債原因が前回と一緒であったり、一緒ではないがギャンブルや投資などで多額の借金をしていたりする場合は、例外的に2回目の自己破産が難しくなることもあります。詳しい説明はこのあとしていきます。

2 前回破産から7年以内の場合

前回の破産から7年経っていない場合を解説していきます。

(1)原則できない

前回の自己破産から7年経っていないときは、破産法の条文に正面からぶつかるため、原則として2回目の自己破産をすることができません。

(2)例外的にできることもある-負債原因が医療費など

ただし、負債原因などによっては、裁量免責をもらい、2回目の自己破産ができることもあります。
裁量免責とは、原則として免責を許可することができない事情(これを「免責不許可事由」と言います)があるとしても、その他の事情を考慮して、例外的に免責を認めてもらえる制度のことです。破産法の建前ではあくまで例外的な制度ですが、実際の運用ではとても広く活用されています。
例えば、負債原因が医療費や介護費用などの人間が生きていく上でどうしても必要なお金のためであれば、7年以内の2回目の自己破産でも裁量免責が認められることがあります。
諦めずに、正直に弁護士にご相談してみてください。

【参考条文】
破産法第二百五十二条
(中略)
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
(省略)

3 前回破産から7年以上の場合

次に、前回の自己破産から7年以上経っている場合を解説していきます。

(1)原則できる

前回の自己破産から7年以上経っているときは、前回の自己破産だけを理由に自己破産ができなくなることはありません。このため、原則として2回目の自己破産をすることはできます。
ただし、1回目の自己破産と比べて厳しい調査がされることが多いです。なぜ2回目の自己破産をすることになったのか、同じ過ちを繰り返していないのかを調査しないといけないためです。このため、破産管財人が選任される可能性が高くなります。
より詳細な経緯の説明を求められたり、反省文の提出などの課題が出されたりすることも多いです。

≪Point:破産管財人とは?≫

裁判官に代わって、破産者の財産の調査・管理・換価をする人です。それと並行して、免責許可を出して良いかの調査も行います。破産者の監督者的な立場の人だと考えると分かりやすいでしょう。
ほとんどの場合、その地域の弁護士から選任されます。

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(2)例外的にできないこともある

ただし、前回の自己破産から7年以上経っているからといって、無条件で2回目の自己破産ができるとは限りません。

負債原因に、ギャンブルや投資、浪費、換金行為などの免責不許可事由がある場合、当然ながら免責許可をもらえず、自己破産できないこともあります。
裁量免責による救い上げも広くされていますが、2回目の自己破産だと、一般的に調査が厳しくなります。
免責不許可事由の具体的な内容次第では、2回目の自己破産ができないことがあります。

前回の自己破産に免責不許可事由があり、それと同じ免責不許可事由がある場合は、特に厳しくなります。前回の自己破産において、裁判所に対して、二度と同じ過ちはしないと誓約していたはずです(記憶になくとも、申立書類のどこかに記載してあることが多いです)。それを破ってしまったのですから、厳しい対応をされることはやむを得ません。
例えば、前回の自己破産での負債原因がパチンコで、今回の負債原因もパチンコである場合、2回目の自己破産はかなり難しくなります。なお、今回はパチンコではなく、パチスロや競馬であった場合でも、ギャンブルという同じ括りに入りますのでほぼ変わりはないでしょう。

4 諦めないで!-2回目の自己破産が難しいときの2つの手段

2回目の自己破産が難しい場合でも、債務整理を諦めるのは早いです。
債務整理には、自己破産の他に、任意整理と民事再生(個人再生)という2つの手段があるからです。
諦めずに、まずは弁護士にご相談ください。

(1)任意整理

任意整理とは、その名の通り、「任意」…つまり話合い・交渉で、負債の「整理」…つまり返済計画の再設定をするものです。
弁護士が金融機関に対して、(1)本来だと支払わないといけない今後の利息・遅延損害金の減免と、(2)できるだけ長期の分割による月々の返済額の軽減を交渉していきます。

が、任意整理における2本柱です。

(2)個人再生

法律に従い債務を大幅に減額(例えば、負債総額が500万円以上1500万円未満であれば5分の1)にしてもらい、減額後の金額を3~5年で分割返済していく手続きです。個人再生は、民事再生法という法律に従って裁判所を使って行います。

≪Point:7年以内だと給与所得者等再生は利用できない≫

個人再生は、正確には2つに別れています。

の2つです。
小規模個人再生では、債権者に反対しないかどうか意見を聞くのですが、給与所得者等再生では意見を聞くことなく手続きを進めることができます。利用する債務者に有利である反面、少し利用できる条件が厳しくなっています。
自己破産の免責確定した日から7年以内には、給与所得者等再生の申立てはできなくなっているのです(民事再生法239条5項2号ハ)。

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5 2回目の自己破産で知っておきたいこと

ここでは、2回目の自己破産において知っておきたいことをご説明していきます。

(1)弁護士にきちんと申告すること

自己破産をしたことは官報に掲載されます。この官報から、過去の破産歴が一般の人にバレてしまうことはとても稀ですが、裁判所と弁護士は別です。
官報は、有料の会員になれば過去の分を検索することが可能です。裁判所や弁護士は、これによって過去の破産歴も調べることができると考えた方がいいでしょう。
結局発覚してしまうのであれば、最初からきちんと、相談する弁護士に申告をしておきましょう。
なお、依頼を受けた弁護士が、裁判所にどのように報告するかは、その弁護士や案件次第です。

(2)特別の手続きがあるわけではない-しかし破産管財人による免責調査は覚悟しましょう!

2回目の自己破産だからと言って、特別の手続きが用意されているわけではなりません。
ただし、運用によって、1回目よりも厳しい調査がされるのが一般的です。
すでにご説明したように、2回目の破産では、破産管財人が選任され、破産管財人による厳しい調査がされることが一般的です。
また、この破産管財人は弁護士から選ばれることがほとんですが、その仕事に対する最低限の報酬は、自己破産する人が準備しないといけません。裁判所によりますが、最低でも20万円を準備する必要があります。

≪Point:なぜ弁護士に相談するのか-本人対応は困難≫

自己破産手続きを進めていくには、専門知識が必要です。また、書籍には書かれていない、実際の裁判所の運用等にも精通しているなど、経験も必要となります。ご本人様だけで手続きを進めていくのは難しいでしょう。 実際、「2017年破産事件及び個人再生事件記録調査(日本弁護士連合会/消費者問題対策委員会)」によると、個人の自己破産で専門家の関与なく本人で破産申立てをした割合は、1.29%で、本人申立ての割合は極めて少なくなっています。

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自己破産をご検討されたら、まずは弁護士に相談されることを強くお勧めします。

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