弁護士コラム

まもなく始まるフリーランス新法について

こんにちは。弁護士の山本皓太です。

今回は令和6年11月1日に施行されるフリーランス・事業者間取引適正化等法(正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。)という、いわゆるフリーランス新法について取り上げたいと思います。多くの方が関わることになりますので、この記事を読んで概要だけでも押さえておくとよいと思います。

1 フリーランスとは

(1)語源

そもそも「フリーランス」とは何でしょうか。ここ最近急速に呼ばれ始めるようになったことから、よくわかっていない方も多いのではないでしょうか。

「フリーランス」とは、英語表記は「Freelance」と書き、「Free(自由)」と「Lance(槍)」を組み合わせた言葉で、戦争で使われる主な武器が槍だった中世ヨーロッパ時代に、個人で雇われた傭兵を「フリーランス」と呼んだことがその起源とされています(諸説あるようです。)。

(2)定義

「フリーランス」は、組織や団体などに所属せず、単発の仕事ごとに契約する働き方を指し、自分のスキルや専門技術を活かして個人で仕事をするのであれば、職種は問わず誰でもフリーランスと名乗ることができます。なお、開業届を出しているかどうかで税務上は個人事業主と区別されますが、開業届を出している人も広くフリーランスと呼ばれています。

フリーランス新法は、業務委託を受ける上記のようなフリーランスのことを「特定受託事業者」と定義しています(第2条第1項)。なお、この法律には「フリーランス」という用語は使われていないため、「特定受託事業者」のことを一般的な意味で指すところの「フリーランス」と読み替える必要があることに注意しましょう。

(3)特徴

フリーランスの特徴として、以下のような特徴が挙げられます。

  1. 報酬:案件によって決まり、支払時期も様々
  2. 就業場所:自由(自宅やクライアント先が多い)
  3. 就業時間:自由(成果物を納品できればOK)
  4. 社会保険等:なし
  5. 委託元との指揮命令関係:なし

(4)具体例

フリーランスとして活動していることが多い具体的な職種としては、コンサルタント、講師、システム開発・ウェブ制作関係、運送、美容、デザイン、営業、データ入力、飲食、サービス、スポーツ指導、映像・カメラマン、製造・組立て、事務、士業、建設、ライター、清掃、舞台・演劇、俳優・アイドル、医療・福祉、広告・マーケティング・SNS運用などがあり、非常に多く存在することから、皆さんも身近で接することが多いのではないでしょうか。

2 これまでのフリーランス・トラブル

(1)トラブル例

私は、令和4年5月から「フリーランス・トラブル110番」の相談担当弁護士をしています。そこに寄せられる相談では、以下のようなものが多い傾向にあります。

  1. 報酬や業務内容の明示がない
  2. 報酬の支払がない又は遅れている
  3. 報酬を一方的に減額された
  4. 仕様や作業期間、納品日を一方的に変更された
  5. 辞めさせてくれない、辞めると言ったら損害賠償請求すると言われた

など、今でも毎日フリーランス・トラブルに関する相談が多くあります。

(2)これまでの法規制

これらのトラブルに対する法規制としては、

  1. 下請法による規制(優越的地位の濫用の禁止)
  2. 独占禁止法による規制(排除措置命令などの行政処分)
  3. 民法による規制(委任契約の即時解除)
  4. 労働者性を主張して労働法による規制(解雇法理の適用)

などがあります。具体的な解決策のアドバイスをここで言及することはできませんが、相談の場では現行法で解決できるような各種アドバイスをしています。

(3)法規制の問題点

しかしながら、それでも以下のような問題があります。

  1. 事業者(相手方)の資本金が1000万円以下の場合は下請法の規制対象外
  2. 一人のフリーランスでは独占禁止法による公正取引委員会の行政処分を利用するにはなかなかハードルが高い
  3. 民法が適用できることをそもそも知らない、事前に防止できない
  4. 労働者ではないケースが多く、労働法の規制対象外

など、抜け穴も多く、フリーランスの保護が不十分な状態でした。

3 フリーランス新法の制定

(1)目的

上記のようなフリーランスの問題を背景に、新しく定められた法律がここで取り上げているいわゆるフリーランス新法です。

フリーランス新法の目的は、大きく以下の2つです(第1条)。

  1. フリーランス取引の適正化
  2. フリーランスの就業環境整備

つまり、これまで適用外とされてしまったフリーランスにも下請法と労働法の規制を及ぼすようなイメージと理解しておくとよいと思います。

(2)特徴

フリーランス新法の特徴として、以下のような特徴が挙げられます。

  1. フリーランスの定義付け
  2. 契約内容の書面化を義務付け
  3. 報酬支払期限のルール化
  4. 罰則の規定

以下でもう少し詳しく取り上げていきます。

(3)特徴1:フリーランスの定義付け(第2条第1項)

まず、フリーランス新法は、これまで各法律で適用外だったフリーランスを上記のように「特定受託事業者」と定義付けを行いました。定義としては非常に範囲が広く、多くのフリーランスが該当することになり、保護の対象が大きく広がったことが一つの特徴です。

(4)特徴2:契約内容の書面化を義務付け(第3条)

次に、フリーランス新法は、事業者側に契約内容、報酬額、支払期日等の事項を書面ないし電磁的記録による方法でフリーランス側に明示することを義務付けました。これによりフリーランス側は適用外とされていた下請法と同様の保護が受けられるようになり、契約条件がきちんと明示されることでトラブル防止にもつながっていくことが期待されます。

(5)特徴3:報酬支払期限のルール化(第4条)

また、フリーランス新法は、事業者側に原則60日以内(再委託の場合は30日以内)での報酬支払期限を設けることを義務付けました。これについても、フリーランス側は適用外とされていた下請法と同様の保護が受けられるようになりました。

なお、この他にも報酬減額の禁止や買いたたき等の禁止など下請法同様の規制がされるようになりました(第5条)。

(6)特徴4:罰則の規定(第24条~第26条)

さらに、フリーランス新法は、事業者側に公正取引委員会の命令違反や報告義務等に違反した場合に罰則を規定しました。これまでガイドラインなどの規制もありましたが、罰則を設けたことはフリーランス・トラブルを重く見ていることの一つの表れではないかと思われます。

罰金や過料があるとはいえ、最終的な処分内容としてはそこまで重くないと捉える事業者もいるかもしれません。しかし、処分に至るまでの過程で行政庁が関わることが増え、行政庁から目を付けられれば営業停止処分など、フリーランス新法とは異なる各法律や規則の対象として規制が及ぶことも十分考えられ、事業者側としても決してフリーランス新法を甘く見ない方がよいでしょう。

(7)その他の特徴

フリーランス新法の他の特徴としては以下のようなものが挙げられます。

特に就業環境の整備は労働法類似の規制であり、フリーランスにも労働者類似の保護を及ぼすこととなっています。既に下請法対策やハラスメント防止対策等をとっている大企業は、対策の範囲をフリーランスにも適用することで対応でき、負担が大きいとはいえませんが、対策をしてこなかった中小企業にとっては、フリーランス新法対応のための社内制度の構築から始める必要があり、非常に負担が大きいでしょう。

4 フリーランス新法への対策

冒頭に記載したとおり、フリーランス新法には多くの方が関わることになります。
では、フリーランス新法への対策として、どのようなことを進めていけばよいでしょうか。

(1)フリーランス側

フリーランス側としては、トラブルを防ぐためにも、まずは下記の対策をしましょう。

  1. フリーランス新法の概要を把握する
  2. 募集条件のチェック
  3. 契約書のチェック
  4. 相談できる機関の把握

ア 1. フリーランス新法の概要を把握する

まずは上記に記載したような概要だけでも知っておくべきです。この記事をここまで読んでいれば概要は理解できたのではないかと思いますので、しっかりと読んだ内容を覚えておきましょう。

イ 2. 募集条件のチェック

仕事の依頼を受ける際に、条件を確認すると思いますが、募集条件がきちんと明示されているか確認しましょう。募集条件を明示していない時点で、フリーランス新法を知らない事業者であるとの推測が働き、きちんとした体制が整っていない事業者であることが予想され、トラブルが起きる可能性があります。

もちろんすべての中小企業が直ちにフリーランス新法に対策できる力があるわけではないと思いますので、それでも取引を進めることはあるでしょう。そんな時でも少しでもここで警戒心を強めることができるでしょう。

ウ 3. 契約書のチェック

契約を締結する前に契約書をしっかりと確認していく必要があります。フリーランス・トラブル110番で日々相談を受けていると、個人事業主であり、自分自身に直結する内容であるのに、意外と契約書のチェックをしっかりしていない方が圧倒的に多い印象を受けます。自分に不利な条項が記載されていないか、よく読むことをお勧めします。読む時間を与えてもらえないケースなどは要注意です。

自信がない方は、多少お金がかかっても弁護士のチェックを受けて、どのような問題があるのか、どのようなことに注意すればよいのか、個別に確認するとよいでしょう。一度確認すれば以後注意できるポイントもわかるかと思います。

契約書を作成しない事業者も多いですので(フリーランス新法施行後は契約書を作成しないといけません。)、自分自身が主体となって契約書を作成して相手に合意を求めてもよいと思います。その際も一度弁護士との間でしっかりとした契約書のひな型を作成しておくと、トラブルに対するリスクヘッジができてよいのではないかと思います。

エ 4. 相談できる機関の把握

上記のような対策をしてもトラブルが起きるときは起きるものです。その際に誰に相談したらよいのか、どこに相談したらよいのかはしっかりと確認しておきましょう。

あなたがフリーランスであるのであれば、まずはフリーランス・トラブル110番に相談してみるのが近道ではありますが、各弁護士会の法律相談や当事務所へご相談いただいてもよいかと思います。

当事務所は、初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

(2)事業者側

事業者側ができる対策としては、ここに記載した概要を把握するだけでは不十分です。各事業者の現状と行っている対策など、事業者によって様々な状態が考えられますので、まずは弁護士への相談や法務部での検討が必要でしょう。

なかなか契約書のチェックまで、費用を出して弁護士にチェックしてもらうということには中小企業の場合はハードルも高いでしょう。しかしながら、一度チェックを受ければ、自身では気付けなかった点も判明しますので、顧問弁護士がいない場合やこれまで対策をしてこなかった場合は、法律相談だけでも利用してみることをお勧めいたします。

当事務所では、利益相反にならない範囲で、顧問契約や契約書チェックのご依頼も受けており、初回相談も無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。

5 終わりに

最後は宣伝のような形となってしまいましたが、フリーランス・トラブル110番での相談や一般的な法律相談、案件処理をしていて、日々思うことを記載したいと思います。

それは皆さん相談するのが遅いということです。もっと早く相談していただければ、別の解決方法や不利にならない解決ができたのに、これでは解決策が限定されてしまうというケースが圧倒的に多いです。

弁護士は、専門家で多くの知識を有していることもありますが、法律事務所は多くの情報が集まるところでもあります。私をはじめとした弁護士自身も日々研鑽もしていますので、毎日情報や解決策がアップグレードされていきます。どんな些細なことでも相談すれば解決できることも多いことから、まずは相談してみることをお勧めしています。

よく弁護士に相談しても費用が高いだとか、結局泣き寝入りになるなどということも聞きますが、私はそうではないと思っています。相談料は当事務所のように無料のところも多く、依頼に至らなくても具体的な解決策の提示を受けることができることで選択肢の幅が広がり、納得できるところまで追及していくことができ、心のよりどころもできるのではないかと思います。結果的に泣き寝入りになってしまったとしても、諦めがついて、次に進めるという意味では有益なことではないかと思います。

費用対効果の点で、フリーランス・トラブルに関しては依頼に至らないケースも多いかと思いますが、最近ではこういったトラブル防止用の弁護士費用特約付きのフリーランス保険などもあるようですので、検討されてもみてもいいと思います。

とはいえ、まずは一人で抱え込まずに早期に相談していくようにしましょう。その一助として私や当事務所が貢献できれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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