弁護士コラム

電動キックボードを安全に利用するために

西新宿オフィスの弁護士 佐藤です。
交通事故事業部に所属しており、普段は、交通事故の案件を多く取り扱っています。

今年の7月から改正道路交通法が施行されたことにより、街中で電動キックボードを利用している人をよく見かけるようになり、私の所属する西新宿オフィスの近くでも明らかに利用者が多くなったと感じています。電動キックボードを利用してみようと考えている人も多いのではないかと思いますが、ルールが分からないという人も多いと思います。
そこで、今回は、電動キックボードに関して記載したいと思います。

改正前後の電動キックボードの扱い

改正前において、基本的に電動キックボードの車両区分としては「原動機付自転車」に分類されていました。したがって、公道で利用するには、原付免許の必要なバイクと同じルールを守る必要がありました。
改正後は、新たに「特定小型原動機付自転車」というものが規定されました。特定小型原動機付自転車に該当する電動キックボードを利用する場合には、改正後のルールの下に利用することが可能になります。

具体的な改正前後での主なルールの違いは、以下の表のとおりです。

改正前改正後
免許必要不要
ヘルメットの着用必要(義務)不要(努力義務)
速度法定速度時速30㎞最高速度時速20㎞
走行場所車道のみ車道・自転車道
※例外的に歩道・路側帯走行可能

横にスクロールすると表を確認できます

しかし、あくまでもこの改正後のルールは、「特定小型原動機付自転車」に該当する電動キックボードに適用されることになりますので、全ての電動キックボードが対象になるわけではありません。

特定小型原動機付自転車に該当する電動キックボードとは

「特定小型原動機付自転車」に該当するためには、以下の基準を全て満たす必要があります

① 車体の大きさは、長さ190㎝以下、幅60㎝以下であること
② 原動機として、定格出力が0.60kW以下の電動機を用いること
③ 時速20㎞を超える速度を出すことができないこと
④ 走行中に最高速度の設定を変更することができないこと
⑤ AT機構がとられていること
⑥ 最高速度表示灯が備えられていること

上記6項目を満たしていない電動キックボードは、特定小型原動機付自転車ではないことから、改正前同様のルールの下で利用しなければなりません。なお、特定小型原動機付自転車に該当する場合でも、ナンバープレートの取り付け、道路運送車両法上の保安基準に適合していることは改正後も必要になりますので、この点は気をつける必要があります。
見た目は電動キックボードであっても、特定小型原動機付自転車の性能を有していないものもあります。特定小型原動機付自転車の性能を有している商品には、性能等確認済みのシールがついていますので、利用する前に確認をするようにしてみてください。

電動キックボードを利用する際の注意点

上記のようにルールが変更されたとしても、特定小型原動機付自転車に該当する電動キックボードを利用する際には、注意をすべきことがあります。知らずに利用した場合、思わぬ交通ルール違反を犯してしまうかもしれません。

1 利用できるのは満16歳以上である

免許が不要になったからといって、誰でも利用できるわけではありません。利用できるのは満16歳以上となっていますので、原付免許の取得可能な年齢に達している必要があります。16歳未満の者が利用した場合には、6月以下の懲役または10万円以下の罰金という罰則も設けられています。

また、16歳未満の者に電動キックボードを提供して、提供を受けた16歳未満の者が電動キックボードを利用した場合には、提供した者にも同様の罰則があります。そのため、例えば、親が普段利用している電動キックボードを16歳未満の子どもに貸して子どもが利用した場合には、親も罪に問われますので、知らずに子どもに貸さないように気をつけてください。

2 歩道を通行できるのは特定の条件の下である

電動キックボードで歩道を走行している人を見かけたことがあるかと思いますが、常に歩道を走行できるわけではありません。歩道を走行することができるのは特定の条件の下であり、原則は車道または自転車道を通行しなければなりません。

歩道を走行するためには、「特例」特定小型原動機付自転車に該当する必要があります。具体的には、最高速度表示灯を点滅させること、時速6㎞を超える速度を出せないこと等が必要になります。

電動キックボードには、ハンドル部分に最高速度を時速6㎞に制限できるボタンが付いており、そのボタンを押すと、最高速度表示灯が点滅して時速6㎞以上の速度が出ないようになるもの(以下「時速6㎞モード」といいます。)があります。街中で緑色のランプを点滅させながら走行している電動キックボードがありますが、これが時速6㎞モードにしている歩道を走行してもよい特例特定小型原動機付自転車になります。

時速6㎞モードにできる装置のない電動キックボードについては歩道を走行することはできませんし、時速6㎞モードにせずに通常の速度で走行している電動キックボードも歩道を走行してはいけないことになります。なお、走行をしながら時速6㎞モードに切り替えることはできません。そのため、通常の速度で走行し、歩道に入ってから時速6㎞モードに走行しながら切り替えようと思っても切り替えられませんので、必ず歩道に入る前に停止し、時速6㎞モードに切り替えた上で歩道に入るようにしましょう。

もっとも、走行できる歩道は、「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識等、特例特定小型原動機付自転車が歩道を通行することができるとされている歩道に限られており、全ての歩道を走行できるわけではありません。

また、歩道を通行する際には、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならず、歩行者の進行の妨げになるときには一時停止をしなければなりません。

あくまでも歩道は歩行者優先のため、電動キックボードで歩道を走行する場合には、歩行者の間を縫うように走行することはしてはならず、歩道に歩行者が多いときには、歩道を走行するのは避けて車道を走行するようにしましょう。

3 その他の交通ルール

車等と同様に、飲酒運転は当然禁止されています。違反した場合には、5年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。また、携帯を操作しながらの走行も禁止されており、違反した場合には、6月以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

その他、一時停止標識のある場所では一時停止をしなければならず、一方通行道路においては逆走をしてはいけないというような一般的な交通ルールにも従う必要があります。

なお、特定小型原動機付自転車に該当する電動キックボードは、右折する際は自転車同様に二段階右折をしなければなりませんので、右折する際には注意をする必要があります。

交通事故を起こしてしまったら

特定小型原動機付自転車に該当する電動キックボードであっても、交通事故を起こした場合には、負傷者を救護する義務があり、警察に報告する義務もあります。電動キックボードを走行していて歩行者に衝突し怪我をさせたにもかかわらず現場を立ち去った場合には、ひき逃げとして10年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

また、特定小型原動機付自転車に該当する電動キックボードは、法改正後においても自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)の加入は義務付けられていますので、必ず自賠責保険に加入するようにしましょう。もっとも、自賠責保険は、他人に怪我をさせた場合の保険のため、物損や自身の怪我は対象外であり、他人に対する傷害分の損害も120万円までしか対応をしていません。そのため、電動キックボードに乗っていて自損事故を起こし怪我をした、車と衝突して相手方の車の修理費を負担しなければならなくなってしまった、相手方に重傷を負わせてしまい賠償額が高額になってしまったというような場合には、自賠責保険だけでは賄えなくなります。万が一事故を起こしてしまったときのことを考えて、任意保険にも加入しておきましょう。

最後に

法改正により、免許不要となると、普段、車やバイクの運転をしない人でも、電動キックボードを運転できるのではないかと思い、ちょっと乗ってみようかなという気持ちになると思います。

しかし、電動キックボードは最高速度が時速20㎞出ますので、事故を起こした場合には、自身の命に関わるだけではなく、相手の命を奪う可能性があります。特定小型原動機付自転車特有のルールもありますが、一般的な交通ルールも当然に把握していなければならず、免許を取得していないから交通ルールを知らなかったという言い訳は通用しないことになります。

最近でも、電動キックボードで歩道を走行していた際に、事故を起こし歩行者に骨折の怪我を負わせたとして、電動キックボードの運転手が逮捕されたというニュースが記憶に新しいかと思います。

新たな交通手段として便利ではあると思いますが、利用する場合にはルールを把握した上できちんとそのルールを守るようにしましょう。

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