弁護士コラム

お子様の交通事故について

福岡オフィス 徳原聖雨

新年度になりました。5月や6月は、小さなお子様が交通事故に巻き込まれることが多くなる、というデータがあります。そこで、今回は、お子様視点で交通事故の被害者になった場合と加害者になった場合とで、実際にあったご相談をもとにそれぞれお話ししたいと思います。

Q1 子どもが車に接触してけがをしました。今後どうすればいいでしょうか。相手の保険会社が治療費を出してくれるのでしょうか。

事故の現場に一緒にいた場合には、まずは落ち着いて警察と救急車を呼びましょう。車の運転手の名前や連絡先も、名刺をもらうなどして必ずメモしておいてください。あとあとの請求に必要になります。車が逃げてしまった場合には、警察などの手にゆだねて捜査となります。

事故の現場に居合わせず、警察や病院から連絡がきたのであれば、まずはお子様に会いにいきましょう。お子様がどのような状況であるのかを把握することが大切です。お子様も不安になっているでしょうし、親御さんに会いたいはずです。また、お子様がけがを大丈夫だと言っていても、必ず病院での診察を受けてください。

損害賠償額については、車の運転手が任意保険に入っている場合、相手の保険会社と連絡を取り合うことになります。事故後、数か月間はお子様の治療に専念してください。相手の保険会社からは、様々な書類が届くことになるかと思います。内容をみてよく分からないものがあれば、相手の保険会社に聞いてみることも大切です。

相手の保険会社に請求できる項目というのは、状況によりけりですが、多岐にわたります。また、保険会社から提示された額が十分ではない場合も多いです。保険会社との交渉には、交通事故についての専門的知識が必要となりますので、弁護士などの専門家にご相談されるのが重要です。何か起こってからでいいか、ではなく、なるべく早くの段階で(もうこれ以上治療しても回復の見込みなし、といういわゆる症状固定の前の段階であっても)ご相談される方がいいと思います。
なぜかといいますと、「忙しくて病院に行く時間がない」「もう大幅な回復が見込めないので、頻繁に行っても仕方ないかも」などの理由で、治療の必要があるのに通院の頻度が下がってしまうと、「治療を打ち切りしましょう」と相手の保険会社に言われてしまうことがあるからです。弁護士が間に入ることで、治療を継続させるための交渉もできることがあります。相手の保険会社とのやり取りもバトンタッチすることになりますので、精神的な負担も軽減されるでしょう。

Q2 子どもが自転車を運転中、人にぶつかってけがをさせてしまいました。けがの治療費は支払わないといけないと思うのですが、ほかにはどんな賠償をすることになるのでしょうか。

まず、自転車を運転していたお子様に対しては、民法709条に基づく損害賠償請求をされることが考えられます。しかし、お子様の年齢にもよりますが、責任能力がないとしてそもそも損害賠償責任を負わない可能性もあります。その場合には、お子様の親に対して民法714条に基づく損害賠償請求がなされるでしょう。

そこでの損害項目は多岐にわたります。治療費はもちろんですが、その事故を原因として被害者の方が寝たきりになってしまった場合には、将来における介護費用が高額になる可能性も十分にあります。

実際に、過去には神戸地裁にてそのような判断がなされました。この事例は、自転車に乗っていた当時小学5年生だった子どもが歩行者と衝突したというものです。裁判では、被害者側は、子どもが高速で坂道を下るなど交通ルールに違反した危険な行為をしており、子どもの母親の監督義務違反を主張しました。一方、母親側は、子どもが適切にハンドルを操作しており、母親からライトの点灯やヘルメット着用を指導していたと主張しました。
判決では、子どもが時速20~30キロメートルで走行し、前方不注視であることが事故の原因であると認定、事故時はヘルメット未着用であったことなどから母親の指導や注意が功を奏しておらず、監督義務を果たしていないとして、母親に約9500万円の賠償を命じました。
親が子どもに対して普段から自転車の運転に注意していたとしても、実際に子どもが言いつけを守っていなければ、その言い分は通らない可能性がある、ということです。また、ヘルメット未着用、というところが重視されていたのもポイントです。確かに、加害者側がヘルメットを着用していた否かは、被害者側にはあまり関係がないかもしれません。しかし、それでも、「親が交通ルールについて、きちんと指導しており、子どもがそれを守っていた」という判断基準にはなるかもしれません。

ほかにも、無灯火で自転車を運転していた高校生が歩行者に追突した事故の事例では、約5000万円の支払いを命じる判決が横浜地裁で出されたことがあります。子どもの責任能力が認められると、高額となりうる損害賠償を子ども自身が負担することにもなりかねません。
今は、自転車事故に対応する保険もありますし、自転車を購入する際に保険がすすめられることもあります。そのような保険に加入しておくこともいいと思います。

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