弁護士コラム

セクハラ相談の現在地

高松オフィス所長をしています、弁護士の阿部です。

当オフィスでは、任意整理や自己破産等の債務整理事件のほか、離婚や相続等の家事事件、労働に関する事件、その他様々なご相談をお受けしています。職場でのハラスメントに関するご相談も多いことから、今回は職場のセクシュアルハラスメントに関する問題について書かせていただきます。

セクシュアルハラスメント(=セクハラ)は許されないことであるという認識は、ここ30年あまりで社会にすっかり定着したといえると思います。ですが、なくなるかといえば残念ながらなくならない。相変わらず同じような事例が繰り返されているように感じます。
男性からはしばしば、同じことをしてもある人は許されるのに、ある人は許されなかったりするのは極めて理不尽だ!なんて不満を聞くこともあります。
たしかに、受け手側がどう思うか、というところは重要ですから、同じことをしても問題になったりならなかったり、ということがあります。
例えば、異性の上司から、二人きりでの食事の誘いを部下が受けた場合、どうでしょう?
上司との信頼関係があれば、部下が快く応じることがあると思います。しかし、一度でも誘いに難色を示されたなら、それ以上しつこく誘うことはセクハラかどうかはともかくハラスメント行為としてアウトとなる場合があるでしょう。
ここで、部下が応じたからといって、何にも問題ないかといえばそうでもありません。部下は、上司の機嫌を損ねたくない、或いは気に入られたいがゆえに、実は内心嫌々ながら応じていた、ということもあるわけです。さらには、部下に受け入れられていると勘違いした上司が誤った認識のまま、次に部下の体に触れるというようなセクシュアルな行動に出てしまい、そこでアウトとなってしまうケースもあります。こういうケースでは、周囲の人たちも、この部下は上司の行為を受け容れていると勘違いしていたりして、この部下が実は困っていたことに気付いてなかった、なんてこともあります。
こういった場合でセクハラ問題が表面化してしまうと、上司はもちろん部下や周囲の人たちも少なからずダメージを受け、職場全体のマイナスとなってしまいます。
どうすればセクハラを防げるかというと、やはり、各自が誰にもセクハラをしない、させないということを肝に銘じつつ、職場全体でそういったトラブルに発展していかないように互いに気を付ける、という当たり前のことに行きつきます。使用者も労働者も、上司も部下も、どの立場にある人も皆で研修を繰り返す等して意識付けしていくことがとても大切です。

ところで、セクハラの定義は、厚生労働省のホームページでは、“職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること”とされています。そして、性的な言動を行う者は、事業主、上司、同僚に限らず、取引先等の他の事業主またはその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等もなり得ます、とあり、その対象は広くなっています。

そのため、職場のセクハラの相談は、労働相談のかたちでくるものばかりではありません。被害者支援センター(https://www.nnvs.org/shien/list/)からの相談というかたちで受ける場合もあります。
店舗で物品販売をする仕事に従事していた女性が勤務中に入店してきた見知らぬ男性客に突然抱きつかれたといった事案や、店のバックヤードで同僚に突然抱きつかれたというものもありました。いずれの事件でも、加害者は強制わいせつの罪(刑法第176条)で起訴されていました。
私は、被害者の方の代理人として、加害者に対し、被害弁償金の支払いをしてもらうための交渉等を行いました(なお、こういった事件で条件を充たす場合は、日本弁護士連合会の犯罪被害者法律援助制度をご利用いただくことができ、弁護士費用を自己負担していただかなくてもいい場合があります。)。加害者本人だけでなく、勤務先の会社の責任を問うことができるような場合は、会社に対しても交渉を行いました。
なぜふつうに仕事をしていただけでこのような被害に遭わなくてはならないのか、働くこと自体が怖くなったとこぼす被害者の方に、働くうえでこういった被害を防御する術はないわけで、かける言葉に詰まりました。

長年の性加害がようやく広く社会に認知されることになったジャニー喜多川氏の問題も、セクハラ問題でもあるわけで、「枕営業」なんて言葉もあるように、女性でセクハラを受けてきた人はこれまでたくさんいただろうと想像されます。#MeToo運動が世界に広がっていったように、セクハラの問題は日本だけでなく、どこの国でも、昔から、広く起きていた問題であり、人間のいわば本能的な欲も絡んでくることから、残念ながら根絶はあり得ないと思っておいたほうがいいんだろうなと・・・。そうすると、誰もが、ないしは自分の大事な人が被害に遭うことがあるわけで、とても身近に起こりうる問題といえます。
ですが、被害者が被害にあったことを申告することは、大変に辛いことであり、相手が強い立場の人であれば勇気のいることでもあります。こうした、話すこと自体の難しさ、ハードルの高さは、相談を受けるなかで実感するところです。被害にあったことの精神的ダメージで精神疾患を発症していたり、自分にも落ち度があったと自責の念にとらわれ人に話すことができなくなっている場合もあります。被害を申告できたときには事件から長期間が経過してしまい、証拠が十分にないといった問題があることもあります。
それでも被害にあった方にお伝えしたいのは、ひとりで抱え込んでしまわずに、やはりまずは相談してほしい、ということです。被害にあったことをなかったことにはできませんが、声を挙げることは今後の職場を変えていく一歩になります。そうした積み重ねにより、セクハラや性加害を決して許さない社会の空気が作られ、誰もがもっと安心感をもって働ける社会が実現していくのではないか、そう希望をもって今後も対応していきたいと考えています。

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