弁護士コラム

インターネット上のトラブル・権利侵害への対応

サイバーセキュリティ事業部に所属しております、西新宿オフィスの弁護士の西原和俊と申します。
今回は、サイバーセキュリティ事業部が取り扱う分野の一つであるインターネット上の誹謗中傷・プライバシー侵害等に対する削除請求及び発信者情報開示請求についてご紹介いたします。

1. インターネット上の権利侵害

日常生活におけるインターネットの利用が浸透した昨今、皆様も日頃から動画共有サイト、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、ブログ等のソーシャルメディアを利用される機会が多いと思います。ソーシャルメディアには、興味・関心のある情報にすぐアクセスができる、同じ事柄に興味・関心を持つ人々と容易に双方向でコミュニケーションを取ることができる等、様々なメリットがありますが、インターネット上の発信に関連してトラブルに巻き込まれてしまうという事態も増加しています。

自らに対する事実無根の誹謗中傷がインターネットを通じて投稿されてしまったり、プライバシーに関わる情報が無断で投稿されてしまったような場合にどのような法的手段が採り得るのか、概要をご紹介いたします。

■権利の侵害

インターネット上の投稿に対して何らかの法的手段を採ることを検討する際には、前提として、当該投稿によって自らの権利が侵害されていると言えることが必要です。例えば、SNSや掲示板において、「反社会的勢力と取引のある人物だ」などと社会的評価を低下させるような投稿によって名誉権を侵害された場合や、個人に関わる画像・動画等を無断で投稿されることによってプライバシー権や肖像権等を侵害された場合などが挙げられます。

■同定可能性

また、権利侵害の判断に関連して、投稿された表現が誰に対するものなのか特定できるか否か、いわゆる同定可能性が問題となります。必ずしも自らの本名を名指しされていなければ同定可能性が認められないというわけではありませんが、投稿された内容自体や前後の文脈等から判断して、権利を侵害されたと主張する者の属性をある程度知る者が見たときに、当該対象者(権利侵害を主張する者)に関する投稿だと認識できる程度に同定可能であることが必要とされています。

2. 考えられる対応策

では、インターネット上の投稿によって自らの権利を侵害された場合に、どのような対応が考えられるのかご紹介いたします。

■削除請求

まずは、自らの権利を侵害している投稿を削除するよう求めていくことが考えられます。その中でも、裁判所を通さずに任意での削除を求める方法と、裁判所を利用した法的手続に分けられます。任意での削除を求める方法としては、各ウェブサイトに用意されている削除依頼フォームを利用する方法や、一般社団法人テレコムサービス協会が作成しているガイドライン書式を利用して依頼する方法等があります。しかし、サイト管理者によってはこれら任意の削除請求には応じない場合もありますので、そのような場合には、裁判所を通じた法的手続を検討することになります。具体的には、権利を侵害する投稿がなされているサイトの管理者等を相手方として、当該記事の削除を求める仮処分の申立てをする方法などがあります。

■損害賠償請求

次に、自らの権利を侵害した記事を削除するだけでなく、当該記事の投稿者に対して、自らが受けた精神的苦痛を理由として損害賠償請求をすることが考えられます。ここで、投稿者が誰なのかが判明している場合には、その者に対して損害賠償を請求すればよいのですが、投稿者がどこの誰なのかが分からないという場合も多くあります。
そこで、自らの権利を侵害する投稿をした者を特定するために行うのが発信者情報開示請求です。

■発信者情報開示請求

インターネット上で匿名の投稿者(=発信者)による権利侵害を受けた被害者が投稿者を調べるために、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)」5条を根拠に発信者情報開示請求権が認められています。

発信者情報開示請求権に基づいて、どのような段階を経て投稿者の特定に至るのかを理解するためには、インターネットを利用した通信の仕組みを理解することが必要です。

通常、インターネットの利用者は、インターネットサービスプロバイダ(経由プロバイダ)と呼ばれる通信事業者とプロバイダ契約を締結することによって通信サービスを利用し、当該インターネットサービスプロバイダが提供する通信設備を利用することによって、コンテンツプロバイダと呼ばれる事業者が提供する様々なインターネット上のコンテンツ(SNS、ブログ等)にアクセスしています。したがって、投稿者の特定のためには、その通信経路を遡るようにコンテンツプロバイダから権利侵害に係る投稿の発信者情報(IPアドレス等の通信ログ)の開示を受け、それらの情報を基に投稿者が利用したインターネットサービスプロバイダを特定します。インターネットサービスプロバイダが通信ログを保存している期間には制限があることが一般的であることから、特定したインターネットサービスプロバイダに対し、裁判外で通信ログの保存を要請し、必要に応じて通信ログ保存の仮処分の手続きをとった後、当該インターネットサービスプロバイダに対して契約者である投稿者の情報(氏名・住所等)を開示するよう発信者情報開示請求を行っていくことになります。

通常、インターネットサービスプロバイダが任意(裁判外)で発信者情報を開示することはないため裁判所を通じた手続が必要になることに加え、仮処分の手続をとるべきか通常の民事訴訟によるべきかの判断が必要であり、投稿者の通信がMVNO(仮想移動体通信事業者)を経由している場合にはさらに追加での手続が必要になる等、専門的な知識が必要とされます。

■プロバイダ責任制限法の改正

このように従来からの手法によれば、①コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求、②インターネットサービスプロバイダに対する通信ログ保存請求、③インターネットサービスプロバイダに対する発信者情報開示請求という複数の手続が必要とされていましたが、改正プロバイダ責任制限法(2022年10月1日施行)により「発信者情報開示命令申立て」(非訟手続)という新たな制度が創設されました。

この制度により、①コンテンツプロバイダに対する開示命令の申立て、②(インターネットサービスプロバイダ等に関する情報の)提供命令の申立て、③通信ログの消去禁止命令の申立て、④インターネットサービスプロバイダに対する開示命令の申立てが、一つの手続きにより一体的に審理されることが可能となりました。

改正プロバイダ責任制限法に基づく新たな制度である発信者情報開示命令手続と併せて、従来からの手法も存続しており、請求する側が事案に応じて最適な方法を選択すればよいこととなっています。

お気軽にご相談ください

ソーシャルメディアが発達した現代において、匿名の投稿者からの謂れのない誹謗中傷や、プライバシー侵害の被害を受ける事案が増加しています。些末な投稿は無視してしまうというのも選択肢の一つですが、放置すると転載等によって被害が拡散してしまう場合もあり得ます。どのような場合にどのような手続を取り得るのか、専門的な知識や経験を前提とした検討が必要となります。インターネットに関わるトラブルに巻き込まれてお悩みの方は、お早めに弁護士にご相談ください。

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