弁護士コラム

私と安保法制違憲訴訟

判決後の旗出し(右が有岡)

西新宿オフィス所属の弁護士 有岡佳次朗です。

私は、弁護士になって1年目から安保法制違憲訴訟の弁護団に加入しており、今年で8年目を迎えました。
私が参加している安保法制違憲訴訟について紹介し、私がこの裁判を通じて感じたことなどをお話したいと思います。

安保法制違憲訴訟とは、2015年7月16日に衆議院で、同年9月19日に参議院で強行採決により可決し成立したとされる自衛隊法など10の法律を一括改正した新安保法制法に対して、憲法9条等に反して違憲であるという国家賠償請求訴訟と自衛隊の出動等の差止請求訴訟を指します。
この強行採決は、当時ニュースなどで多く扱われていたことからご存知の方も多いと思いますが、反対派の議員が抗議のために押し寄せる中、与党の国会議員が委員長を取り囲み、いわゆる人間かまくらと呼ばれる手法で採決を強行したものです。

全国各地で同様の訴訟が起こされ、東京のほか、大阪、名古屋、札幌など22の裁判所で25の裁判が起こされています。
私は、東京訴訟の弁護団に加入しておりますが、東京では2016年4月に訴訟が提起されました。
東京弁護団には、日弁連事務総長を務めた寺井一弘先生や、伊藤塾塾長の伊藤真先生、裁判官を務めた弁護士などさまざまな経歴の弁護士が加入しています。

私が、この弁護団に加入した経緯についてお話しします。先ほど述べた強行採決のときは、私は司法修習生で、新安保法制法についてはニュースなどで知る程度でした。しかし、強行採決の日に、数万人規模の人が国会前に集まって声をあげている映像を見た時に、日本でこのようなことが起きていることに強く衝撃を受け、ただならぬことが起きていることを感じ、そこから新安保法制法に関心を持つようになりました。
その後、弁護士法人・響に入所し、新人弁護士として日々の業務を行っていましたが、代表の西川より、安保法制違憲訴訟の弁護団に加入してみないかという話がありました。
私は、新安保法制法に対する違憲訴訟を行っていることを知り、1年目ではありましたが、東京弁護団に加わることになりました。
新安保法制法は、集団的自衛権を容認するなど、従来の政府が現行憲法では行えないと解釈していたものを180度転換するもので、憲法改正を行わない限り現行憲法に反することは明らかで、弁護士としてこの問題を黙って見過ごすわけにはいかないという思いが強くありました。

弁護団加入後は、陳述書の作成のために原告の方々から話を聞きました。太平洋戦争を経験し、悲惨な光景を目の当たりにしてもう二度とこのような戦争を起こしてはならない、平和のもとに暮らしたいという、戦争を経験された方の生の声を聞くことができ、裁判所がこのような当たり前のことをわからないはずがないという気持ちを持っていました。

ところが、2019年11月7日に国賠訴訟で、2020年3月13日に差止訴訟でそれぞれ判決があり、いずれも原告の敗訴判決でした。
裁判所は憲法判断には一切触れず、戦争が起きてないのだから危険は切迫しておらず原告が抱く思いは不安感であって抽象的なものに過ぎないという、理屈としても心情としてもおよそ受け入れられない判決で、私は愕然としました。
その後も、全国各地で判を押したような判決が続き、控訴した東京訴訟の控訴審でも同じような判決となりました。

裁判官も組織に属し、キャリアの形成など各裁判官の生活、人生があることは理解しています。しかし、憲法76条3項に「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と規定されているだけでなく、司法権は行政権、立法権とは区別された独立の権能であることも憲法を学んできた者であれば誰でも知っています。裁判官の中でこれまで誰一人として新安保法制法は憲法に適合しないと考える人がいないとは到底考えられませんが、このような政府に忖度する判決を出さなければならないことの異常性を多くの人に知ってもらいたいと思います。

東京弁護団は、現在、国賠訴訟、差止訴訟ともに最高裁判所に上告していましたが、つい先日、9月7日に国賠訴訟で上告棄却判決が出されました。いわゆる3行半判決というもので、中身に全く踏み込まないものでした。

この間にも敵基地攻撃能力の保有、防衛予算の拡大など、北朝鮮の脅威、台湾有事などと国民の恐怖や不安を煽って、不必要な軍事力をつけていることに一国民として恐怖しかありません。
外部の攻撃から国民を守ること自体を否定するつもりは全くありませんが、同盟国が攻められればその国と共同して敵を攻撃したり、攻められそうになれば敵の基地を攻撃したりすることは、もはや専守防衛ではなく、戦争を仕掛けることができることに他なりません。
戦後80年弱になり、戦争を経験した人が少なくなってきている中で、戦争ができる国に着実になっていることに強く恐怖を覚えます。
これを何としても食い止めようと、弁護士として司法の場で戦っていますが、無力さを痛感させられるばかりです。

今年の8月22日に、全国各地で戦っている弁護団の弁護士との意見交換会が行われました。みなさんそれぞれに裁判所とのやりとりには苦慮していますが、様々な工夫を行い、著名な憲法学者の尋問を行うなど、これまでと比べて希望が持てる話もありました。
まさかここまで負け続けるとは思っていませんでしたが、これからも諦めずに戦っていきます。
このコラムを読んでいただいた方々も、今、日本で何が起き、今後どうなっていくのかについて是非関心を持っていただき、一人一人が考えるきっかけになれば大変うれしく思います。

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