過失相殺の適用範囲・計算方法が知りたい!納得できないときの対処法
交通事故が起こった原因について、当事者の責任の割合を示したものを「過失割合」といいます。
また、過失割合に応じて示談金から差し引くことが「過失相殺」(かしつそうさい)です。
過失相殺のもととなる過失割合を巡っては、相手方ともめやすいポイントでもあります。
相手の保険会社から過失割合を提示されたものの、いまひとつ納得がいかない場面もあるでしょう。
また、過失割合によって示談金がどれくらい減るのかが気になることもあるものです。
この記事では、過失相殺の具体例や計算方法、適用範囲などについて詳しく解説します。
- 慰謝料を増額できる可能性がある
- 保険会社との交渉を徹底サポート
- 24時間365日全国どこでも相談受付中
目次
過失相殺とは?
- 「過失相殺(かしつそうさい)」とは
- 交通事故が起こった責任について、当事者双方の責任割合をもとにお互いの損害額を相殺することです。
被害者にも過失がある場合、加害者が賠償すべき総額から被害者の過失分を差し引いて、示談金が支払われます。
過失相殺については、民法第722条2項によってルールが決められています。
民法第722条2項
被害者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
裁判所とありますが、裁判をしない場合は当事者間の話し合いで決められるため、示談交渉の場においても過失相殺が考慮されます。
もらい事故など過失割合が0:10となる場合を除き、交通事故では当事者双方に事故の責任があるケースが多いです。
- 「過失割合」とは
- 交通事故が起こった原因について当事者間でどの程度の責任があるのかを示した割合です。
過失があれば、その分だけ示談金から差し引かれることになるため、慎重にとらえる必要があります。
過失割合についての詳細は下記の記事も参照ください。
交通事故の過失割合とは?適正な過失割合を知り変更する方法
交通事故の過失相殺の計算方法
過失相殺によって、どれくらいの金額が差し引かれるかを知るためには、具体的な計算方法を把握しておくことが大事です。
また、過失割合について考えるときは「修正要素」のことも押さえておきましょう。
- 「修正要素」とは
- 過失割合に影響を与える個別の原因であり、その内容によって過失割合が変化します。
そして自賠責保険では、被害者の過失が70%未満までは減額対象とならない点にも注目です。
これらの点について、さらに詳しく見ていきましょう。
過失相殺の計算例
交通事故では一般的に、過失割合の大きい方を「加害者」、小さい方を「被害者」と呼びます。
過失相殺によってどれくらい示談金が減額されるのかを把握するために、1つの例を取り上げます。
過失割合が8:2(加害者:被害者)の交通事故において、加害者に200万円、被害者に500万円の損害が発生した場合の考え方は次のとおりです。
加害者の損害(200万円) | 被害者の損害(500万円) | |
---|---|---|
加害者の支払額 | 160万円 | 400万円 |
被害者の支払額 | 40万円 | 100万円 |
被害者が加害者に対して請求できる金額は、
「500万円(損害額)-100万円(被害者の過失)-40万円(過失相殺分)=360万円」
であり、被害者が最終的に受け取る示談金は360万円となります。
※人身に関する損害については、被害者から加害者への支払は自賠責から賄われることが一般的です。
上記の計算例は、加害者が支払う示談金のうち、被害者から受け取る金額を差し引いて支払う「相殺払い」という方法です。
相殺払いの他に、お互いの責任分をそれぞれ支払う「クロス払い」という方法があります。
当事者双方が任意保険を使用する場合には、クロス払いをすることが多いです。
一方、相殺払いは事故相手が任意保険に入っていなかったり、保険を使いたがらなかったりするときに有効な手段となります。相手が示談金をきちんと支払ってくれない場合、上記の例ではクロス払いだと400万円のリスクが発生しますが、相殺払いであれば360万円のリスクに軽減されるからです。
なお現行民法上、人身損害分については当然に相殺払いとならず、相殺払いとするには双方が合意する必要があります。
過失割合を加算・減算する「修正要素」
過失割合は当事者間の話し合いで決まりますが、その際には「修正要素」についてもきちんと押さえておくことが重要です。
修正要素は、事故状況について個別の事情を考慮するものであり、責任の度合いによって過失割合が修正される事柄のことです。
修正要素には
- 加算要素
- 減算要素
の2つがあり、車どうしの事故では5%~20%程度、過失割合に影響を与えます。
おもな修正要素についてまとめると、次のとおりです。
修正要素 | |
---|---|
著しい過失 | ・脇見運転など前方不注視が著しい場合 ・酒気帯び運転 ・時速15キロ以上30キロ未満のスピード超過違反 ・著しいハンドルまたはブレーキの操作ミス など 上記のケースに当てはまる場合は、過失があった側の加算要素となります。 |
重過失 | ・居眠り運転 ・無免許運転 ・酒酔い運転 ・時速30キロ以上のスピード超過違反 ・嫌がらせ運転 など 上記のケースに当てはまる場合は、過失があった側の加算要素となります。 |
大型車 | 大型車は普通車に比べて高度な注意義務を求められることから、大型車であることが事故発生の危険性を高くしたと考えられる場合には大型車側の加算要素となります。 |
直近右折 | 直進車の至近距離で右折するケースです。交差点で直進車が停止線を超えた後の右折などがあげられ、右折車の過失割合の加算要素となります。 |
早回り右折 | 交差点の中心の内側を進行する右折の方法ではない右折のことを指します。右折車の行動によって事故の可能性が増すため、右折車側の加算要素となります。 |
大回り右折 | 中央に寄らないで行う右折を指します。右折車側の加算要素となります。 |
既右折 | 右折しようとする対向車が直進車線に入っているときに、直進車が注意すれば事故が避けられた場合のケースです。右折車に有利な事情として、減算要素となります。 |
道路交通法50条違反の直進 | 交差点などへの進入が禁止される状況で交差点へ進行した場合を指します。交差点に進入した側の加算要素となります。 |
修正要素のとらえ方は、事故状況によって変わってくるので、よく確認しておく必要があります。
相手の保険会社から提示される過失割合では、個別の事情が正しく反映されていない場合もあるので気をつけましょう。
自賠責保険は過失が70%未満だと過失相殺にならない
自賠責保険では、交通事故の被害者救済を目的としているため、過失相殺は厳格に適用されるわけではありません。
重大な過失がなく、被害者の過失割合が70%未満の場合は基本的に減額されない仕組みとなっています。
被害者の過失割合に応じた減額幅をまとめると、次のとおりです。
被害者の過失割合 | 減額幅 | |
---|---|---|
後遺障害または死亡 | 傷害 | |
70%未満 | 減額なし | 減額なし |
70%~80%未満 | 20%減額 | |
80%~90%未満 | 30%減額 | |
90%~100%未満 | 50%減額 | 20%減額 |
※参照元:「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」
自賠責保険は被害者請求での受け取りが可能であるため、被害者が直接相手の保険会社に対して請求できます。
請求できる金額は、慰謝料や治療費などを含めて傷害分の上限が120万円までとなっています。
過失割合を巡って、示談交渉が長引いている場合は自賠責保険への被害者請求も検討してみましょう。
弁護士の〈ここがポイント〉
示談金の計算においては、過失相殺や修正要素などをきちんと把握しておくことが重要です。
相手の保険会社から提示された過失割合に納得できないときは、安易にサインをしてしまってはいけません。
自賠責保険などへの請求も含めて、さまざまな方法を考えてみましょう。
過失相殺が適用される範囲とは
過失相殺は、もらい事故などの0:10の事故を除いて、幅広く適用されるのが特徴です。
そのため、自分がどのケースに当てはまるのかをきちんと押さえておく必要があります。
また前述のように自賠責保険では、被害者の過失が70%未満だと減額とはなりません。
過失割合は警察が決めるものではなく、あくまでも当事者どうしの話し合いによって決められる点を忘れないでおきましょう。
ここでは、過失相殺が適用される範囲について、具体的な事例も交えながら紹介します。
裁判例による過失割合の実例
相手の保険会社から提示される過失割合が妥当なものであるかは、過去の裁判例からわかる部分も多いです。
ここでは、車対車の交通事故において、ケース別の過失割合について紹介します。
過去の裁判例でポイントを押さえておくことで、相手との話し合いを少しでも有利に進めていきましょう。
過失割合0:10の事故(追突事故)
過失割合が0:10となるのは、追突事故(もらい事故)などです。
もらい事故の場合は、相手に対して補償すべき損害が発生しないため、自分が加入する保険会社は対応してくれません。
そのため、自ら示談交渉を進めなければならず、大変に感じてしまう部分もあるでしょう。
また、過失割合は相手方との話し合いによって決められるので、示談が成立するまで0:10の過失割合となるかわからない面もあります。
たとえば、追突された側が急ブレーキや無灯火などで、道路交通法違反となってしまえば過失割合に変更が加えられるケースもあります。
自身の保険会社のサポートが受けられないので、過失割合について悩んでしまったら、弁護士に相談をしてみましょう。
過失割合1:9の事故
過失割合が1:9となる交通事故は、優先道路で起きた事故や追い越し禁止の道路で起こった衝突事故などがあげられます。
■追い越し禁止の道路での事故
追い越し禁止となっている道路で、前方車Aを追い越そうとした直進車Bが接触事故を起こした場合、直進車Bの過失割合が90%となります。
過失割合2:8の事故
過失割合が2:8となる交通事故は、直進車と右折車の事故、お互いに青信号で進入した車どうしの事故などがあげられます。
■直進車と右折車の事故
信号機のない交差点で、直進車Aと右折車Bが衝突事故を起こした場合、右折車Bの過失割合が80%となります。
■お互いに青信号で進入した車どうしの衝突事故
信号機のある交差点で、共に青信号で進入した直進車Aと右折車Bが衝突した事故のケースでは、右折車Bの過失割合が80%となります。
過失割合3:7の事故
過失割合が3:7となる交通事故は、進路変更での事故や高速道路の合流地点での事故などがあげられます。
■進路変更での事故
進路変更をした先行車Aと直進していた後続車Bが衝突した場合、先行車Aの過失割合が70%となります。
■高速道路の合流地点での事故
高速道路では、本線を走行している車の進行を妨害してはならないと道路交通法で定められています。そのため、本線走行車Aよりも合流車Bの過失割合が重くなり、70%となります。
過失割合は当事者どうしの話し合いで決められる
過失割合は警察が決めるわけではなく、多くは当事者どうしの話し合いによって決められます。
つまりご自身と相手側の保険会社と話し合う必要があるのです。
しかし一般の方はどう判断するべきかわからないことが多いため、相手の保険会社が一方的に過失割合を主張してくることがあります。
保険会社が提示してくる過失割合は、過去の事例(裁判例)を参考に判断していると考えられますが、被害者側の状況を的確に考慮していない場合もあります。
そのため、自分にとって不利な内容を示されてしまい、納得がいかないこともあります。
過失割合は示談金の請求に大きく関わってくるので、慎重に判断をすることが大切です。
弁護士の〈ここがポイント〉
過失割合は事故状況に応じて、さまざまなケースがあります。
まずは自分がどのようなケースに当てはまるのかを把握しておきましょう。
そうすることで、相手の保険会社が提示している過失割合が妥当なものかを判断する目安となります。
しかし、実際にはさらに細かく見ていく必要があるので、交通事故案件に詳しい弁護士に相談してみることも大切です。
過失割合に納得いかない場合の対処法
示談の成立を急ぐあまり、納得がいかない過失割合をそのまま受け入れれば、後から悔やんでしまうこともあります。
過失割合は話し合いによって決まるからこそ、示談成立前であれば変えられる可能性もあります。
過失相殺となる割合を少しでも減らせれば、結果的に示談金を増やすことにもつながるはずです。
また、任意保険の人身傷害補償特約を利用したり、交通事故案件に詳しい弁護士に相談したりすることも大切だといえます。
過失割合に納得がいかないときの対処法を、詳しく見ていきましょう。
過失割合は変えられる場合もある
相手の保険会社が過失割合を提示してくるときには、なぜその過失割合となるのか根拠を求めることが大切です。
口頭で説明を求めるというよりは、できるだけ書面で根拠を示してもらうほうがよいです。
根拠をきちんと示さずに話し合いを進めようとしても、もめてしまう原因となるでしょう。
現場状況を撮影した写真や目撃者の証言、ドライブレコーダーの記録などできるだけ多くの証拠を集めることが重要です。
客観的な事実を示す証拠が多いほど、示談交渉はスムーズに進めやすくなります。
また示談交渉でまとまらないときは、ADR(裁判外紛争解決手続)や調停、裁判で解決するといった方法もあります。
自分のなかで納得できるまでは、安易に妥協してしまわずに、過失割合の変更について根気強く取り組んでみましょう。
任意保険の人身傷害補償特約で補償を受ける
早めに必要な補償を受けたい場合は、自分が加入する任意保険の「人身傷害補償特約」を利用してみるのも1つの方法です。
人身傷害補償特約は保険の契約者だけでなく、家族も補償を受けられる点が特徴的です。
歩行中や自転車での事故、他の車に搭乗中に起こった事故などにも対応しています。
人身傷害補償特約を利用すれば、相手との示談成立を待たずに保険金を受け取ることができ、過失割合にも影響を与えません。
弁護士に依頼することで示談金が増額する可能性もある
過失割合を巡った話し合いは、当事者どうしではまとまらないケースも多いです。
示談交渉が長引いてしまえば、必要な補償を受けられないだけでなく、損害賠償請求の時効(消滅時効)も気にする必要がでてきます。
人身事故については、被害者が加害者の存在および損害を知った翌日から5年で時効となります(民法第724条の2)。
2020年4月1日に民法が改正されたことから、消滅時効の期間は延長されていますが、それ以前の事故については、同日時点ですでに時効が成立している場合には3年のままとなるので、注意が必要です。
時効が成立するのを避けるには、示談交渉をスムーズに進める必要がありますが、その際は交通事故案件に詳しい弁護士に相談してみましょう。
弁護士に依頼をすることで、示談交渉を任せられるので、納得のいく結果を得やすくなります。
また、弁護士基準(裁判基準)で算出されることで、示談金が増額する可能性もあります。
【慰謝料の金額に関する記事はこちら】
『交通事故の慰謝料相場はいくら?入通院日数ごとの相場や事例を紹介』
弁護士法人・響では、交通事故の示談交渉や過失割合についてお悩みの方のご相談に対応しています。
交通事故案件について豊富な実績があるので、さまざまな状況に合わせて柔軟に対応することが可能です。
ご自身やご家族の保険の弁護士費用特約が利用できる場合は、費用はほぼかかりませんのでまずはお気軽にご相談ください。
【まとめ】過失相殺のことで悩んだら弁護士に相談しよう
納得のいく形で示談交渉を進めるには、過失割合について正しく理解をしておくことが重要です。
また、被害者自身にも過失がある場合は、過失相殺でどれくらい示談金が減ってしまうのかも把握しておきましょう。
過失割合を巡っては、相手方ともめてしまうことも多く、思うように話し合いがまとまらないこともあります。
ただし、示談の成立を急ぐあまり、安易に妥協すれば後から悔やんでしまうことにもなるでしょう。
相手の保険会社から提示される過失割合に納得できないときは、交通事故案件に詳しい弁護士に相談をしてみましょう。
弁護士法人・響では、最新の判例や専門知識を豊富に備えた弁護士が在籍しています。
過失割合や過失相殺でお困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。
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