交通事故のケガで健康保険は使える?利用しないデメリットと注意点
交通事故でケガを負ってしまった場合、速やかに病院で治療を受けることが大切です。
しかし入通院が長引けば治療費の負担も大きくなるため、健康保険を使えるのか気になることもあるでしょう。
交通事故のケガの治療の場合でも、原則として健康保険は使うことが可能です。
しかしケースによっては使えないこともあり、特に第三者の行為によってケガをしたとき(被害者になった場合)は注意が必要です。
注意すべきポイントを押さえたうえで健康保険を利用すれば、得られるメリットは大きいです。
※この記事では「加害者=過失の割合が大きい交通事故の当事者」「被害者=過失の割合が小さい交通事故の被害者」としています。
- 慰謝料を増額できる可能性がある
- 保険会社との交渉を徹底サポート
- 24時間365日全国どこでも相談受付中
目次
交通事故のケガの治療は健康保険が使える
交通事故でケガを負ったときには、自分が被害者(過失割合が少ない)となった場合でも健康保険を使えます。
しかし被害者の立場で健康保険を利用するのは、注意も必要です。
交通事故の場合は、本来は相手方が治療費を負担することが原則だからです。
健康保険を使う場合は、治療をした後に加害者に対して請求することになるため「第三者行為による傷病届」の提出が必要です。
また健康保険が適用されない「自由診療」を行った場合に、どういった取り扱われ方になるのか気になる部分もあるでしょう。
健康保険の仕組みや自由診療について、さらに詳しく見ていきましょう。
交通事故でも健康保険の給付対象として認められている
交通事故で負ったケガの治療では、原則として健康保険を使うことができます。
健康保険は公的な医療保険であり、昭和43年に当時の厚生省から出された通知においても、以下のように示されています。
自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい。
※「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」(昭和43年10月12日・各都道府県民生主管部局長あて厚生省保険局保険課長国民健康保険課長通知)より引用
上記の通知のとおり、交通事故によるケガは健康保険の給付対象となることが示されています。
健康保険を使わない「自由診療」という方法もある
交通事故によるケガの治療には、以下の2つがあります。
- 健康保険による「保険診療」
- 健康保険を使わない「自由診療」
健康保険を利用した場合の治療費は、本人負担は3割となりますが、「自由診療」は保険の適用がないため、治療費の全額(10割)が自己負担となります。
また健康保険の治療の料金は1点=10円と決まっていますが、自由診療の場合の料金は決まっていません。
病院ごとに自由に料金を決められるため、治療費が想像以上に高額になってしまうこともあります。
しかし保険診療に比べて治療費がかかる一方で、自由度の高い診療を受けられるメリットもあります。
例えば事故の衝撃で歯を失ってしまい、インプラント治療を受けた場合などがあげられます。
- インプラント
- 脳MRI
- 脊椎精密検査 など
自由診療であっても、条件を満たせば治療の一部が保険の適用対象となることもあるので、医師に確認することも大事です。
治療途中であっても、自由診療から保険診療に切り替えることは可能ですので、医師へ相談してみましょう。
また過失割合が0:10で治療費の全額を相手方が負担する場合であっても、自由診療にすべきかは慎重に検討する必要があります。
過失割合は示談交渉の結果決まるものなので、あとから過失割合に変更があった場合、示談金が少なくなる可能性があるのです。
自由診療にかかった治療費の一部を過失割合に応じて、示談金から相殺されることが考えられます。
そのため、原則として健康保険を使った治療を受けたほうが無難といえます。
交通事故でも健康保険を使えないケースもある
交通事故で負ったケガの治療のために、どのような場合でも健康保険が使えるわけではありません。
例えば業務中や通勤途中の交通事故は、健康保険ではなく労災保険が適用されます。
また、被害者自身に故意または重大な過失(飲酒運転など)があるときは、健康保険は適用されない場合があります
健康保険を使えないケース1 通勤中や業務中の交通事故
勤務先への通勤途中や業務を行っているときに交通事故に遭ってしまった場合、労災保険が適用されます。
労災保険は企業で働くすべての労働者が加入するものであり、雇用形態などは関係がありません。
健康保険との併用はできず、二重に給付を受けることはできないので注意しましょう。
労災保険でケガの治療を行えば、窓口での本人負担はないので自賠責保険の補償枠である120万円を有効活用できます。
また労災保険では休業期間中の補償として、平均賃金の60%にあたる「休業補償給付」と20%にあたる「休業特別受給金」の支給が受けられます。
休業補償給付のほかにも、以下の給付を受けることができます。
- 治療費に相当する「療養補償給付」
- 厚生労働省が定める傷病等級に当てはまる場合は「傷病補償年金」
労災保険について詳しくはこちらの記事をご参照ください。
健康保険を使えないケース2 被害者に故意または重大な過失がある
被害者自身が無免許運転や飲酒運転などでケガを負った場合は、健康保険を利用できません。
健康保険を使おうとしても病院から断られてしまうので、治療費は全額自己負担となります。
これは、健康保険法第116条に基づくもので、以下のように定められています。
健康保険法第116条
被保険者又は被保険者であった者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、行わない。
運転者本人に限らず、同乗者にも同様の制限がかかることがあるので注意が必要です。
健康保険は公的保険であるため、道路交通法違反に該当する行為や重大な過失については厳しいルールが設けられています。
健康保険を使えないケース3 病院によっては保険治療を嫌がられる
ケガの治療を受ける病院によっては、健康保険の利用を嫌がられるケースもあります。
病院によっては、収益のために自由診療を勧める場合もあるのです。
しかし前述の旧厚生省の通知によれば、病院での診療で健康保険は使えます。
「交通事故では健康保険は使えません」と病院側から言われた場合は、健康保険が利用できるように交渉してみるか、別の病院へ相談してみましょう。
健康保険の利用について悩んだら、弁護士に相談するのも一つの方法です。
健康保険を使えないケース4 接骨院などでは保険が使えないこともある
健康保険の適用対象外としている治療を受けたときは、健康保険を使うことができません。
たとえば、次のようなケースが当てはまります。
- 整体院やカイロプラクティックなどの施術
- 健康保険適用外の医薬品の使用
健康保険が使えないと、全額自己負担となります。
そのため、利用する前にあらかじめ確認して、どのように対処すべきか指示を仰いでみましょう。
<弁護士のここがポイント>
健康保険が使えない4つのケースを見てきました。ここで紹介したケース以外は、基本的に健康保険が利用できます。健康保険の利用の有無は、示談金の請求にも影響するので、必要に応じて使うことが大切です。
健康保険を使わないデメリット
交通事故のケガで健康保険を使うことは、多くのメリットがあります。
健康保険を使った場合と使わなかった場合で、示談金にどれくらい差が出るかを比較すると以下のとおりです。
〈シミュレーションの条件〉
【過失割合】3(自分):7(相手)
【損害額】治療費100万円、慰謝料など200万円
【その他】自賠責保険を利用
健康保険を使った場合 | 健康保険を使わなかった場合 | |
---|---|---|
治療費 | 30万円 (3割負担) |
100万円 |
慰謝料など | 200万円 | 200万円 |
損害の合計額 | 230万円 | 300万円 |
損害賠償額 | 161万円 (230万円×加害者の過失割合0.7) |
210万円 (300万円×加害者の過失割合0.7) |
受け取れる保険金 | 120万円 | 120万円 |
病院に支払う金額 | 30万円 | 100万円 |
最終的に受け取れる金額 | 90万円 | 20万円 |
上記の試算では、健康保険を使った場合は手元に残る金額が90万円となります。
一方、健康保険を使わなかった場合は、治療費の支払いで自賠責保険の支払保険金限度額の大部分を占めてしまい、20万円しか受け取れません。
使わないデメリット1 受け取れる示談金の金額が減る可能性がある
健康保険を使うことで、最終的に受け取れる示談金が増える可能性があります。
自賠責保険の上限額について、ケガの場合は120万円と決められており、治療期間が長くなれば、結果的に受け取れる示談金が減ることもあります。
また、被害者に支払う示談金が120万円を超えそうになると、保険会社から治療の打ち切りなどを伝えられることがあるでしょう。
健康保険を利用すれば、必要な治療を受けられるだけでなく、自賠責保険の枠を有効活用できます。
結果として、示談金が増えることにつなげられるのでメリットが大きいのです。
使わないデメリット2 高額療養費制度が使えない
健康保険には、「高額療養費制度」というものが設けられています。
この制度は病院で高額な医療費を支払ったときに、申請をすることで一定額を超えた分は後から払い戻される仕組みです。
本人にかかった医療費だけでなく、自己負担額を世帯で合算することができます。
どの程度払い戻されるかは、かかった医療費や所得状況などに応じて限度額が決められています。
健康保険を利用しなければ、高額療養費制度がそもそも使えないため、負担額がとても大きくなる恐れがあります。
治療が長引いてしまうことも考えて、健康保険をしっかりと使いましょう。
使わないデメリット3 治療費支払いを打ち切られると負担が多くなる
健康保険を使っていないときに注意すべき点は、保険会社から治療費の支払いを打ち切られてしまうと、全額自己負担となることです。
健康保険を使っていれば、たとえ治療途中に支払いを打ち切られたとしても、3割の本人負担で済みます。
治療期間が長引くほど自己負担額が多くなるリスクもあるので、初めから健康保険を利用するほうが無難です。
しかしたとえ治療費の支払いを途中で打ち切られたとしても、医師が必要と判断する治療は継続して受けることが重要です。
自己負担した治療費は示談交渉の際に、治療の必要性が証明可能であれば後からまとめて請求できる可能性があります。
まずは、しっかりと必要な治療を受けることが大切だといえます。
<弁護士のここがポイント>
健康保険を使わずに治療を受けていると、受け取れる示談金が減ったり、高額療養費制度が使えなかったりするデメリットがあります。また、保険会社から治療費の支払いを途中で打ち切られてしまった場合に全額自己負担となるなど、困る場面も起こりえます。健康保険を使うメリットをよく理解したうえで、上手に利用してみましょう。
健康保険を使うときの手続きとポイント
健康保険を賢く活用するには使い方だけでなく、手続きの流れや必要書類などをきちんと把握しておくことが重要です。
また、交通事故案件に詳しい弁護士に相談をすれば、さまざまな面でアドバイスが受けられるので心強いといえます。
治療途中でも自由診療から保険適用へ切り替えられる
ケガの治療が始まってしまうと、途中で保険診療に切り替えられるのか気になることもあるでしょう。
治療途中であったとしても、自由診療から健康保険を使った保険診療に切り替えることは可能です。
まずは病院に健康保険を使いたい旨を伝えて、指示に従って必要な手続きを行いましょう。
すでに治療を受けた分もさかのぼって保険適用となる可能性もあります。
仮にさかのぼって健康保険が適用された場合には、差額分が払い戻されることになります。
正しく手続きを進めるためにも、それまで受け取った領収書などを整理しておきましょう。
健康保険を使う場合に必要な書類と手続きの流れ
交通事故のケガの治療で健康保険を使うには、健康保険組合や健康保険協会に対して、「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります。
届け出を行わなければならないのは、被害者が負ったケガの治療費は、本来は加害者が負担するのが原則だからです。
健康保険組合が後から加害者側に治療費の立て替え分を請求するために、さまざまな書類を提出することが求められます。
どのような書類が必要であるかをまとめると、次のものがあげられます。
書類の種類 | ポイント |
---|---|
第三者行為による傷病届 | 全国健康保険協会(協会けんぽ)では、Webから書式をダウンロードできます。 |
負傷原因報告書 | どのような状況で負傷したのかを具体的に記載します。 |
事故発生状況報告書 | 事故の詳しい状況や車の進行方向、道路状況などを図や文章で記します。 |
交通事故証明書 | 自動車安全運転センターで発行できます。交通事故の発生に関する書類です。 |
損害賠償金納付確約書 | 加害者側が書く書類ですが、サインを拒否されたときはその旨を記載しましょう。 |
同意書 | 全国健康保険協会が、相手の保険会社に対して、診療報酬明細書を提示することへの同意書です。 |
念書 | 必要に応じて作成します。 |
健康保険を使うための切り替え手続きを行う際は、速やかに連絡をすることが大切です。
健康保険協会などへ連絡する前に、加害者側との示談が成立してしまうと、健康保険が使えない恐れもあります。
まずはこまめにコミュニケーションをとって、どのような書類が必要かや書き方などを相談してみましょう。
<弁護士のここがポイント>
健康保険を交通事故のケガの治療で使うには、第三者行為による傷病届をはじめ、さまざまな書類を準備する必要があります。速やかに治療を受けるためにも、必要書類に漏れや不備がないかをチェックしましょう。
交通事故で困ったときには弁護士に相談をしよう
ケガの治療のために健康保険を使いたい場合は、手続きに従って進めていけば使えるようになります。
しかし交通事故に遭ってしまうと、不安も多く感じてしまいがちです。
そんな場合は交通事故案件に詳しい弁護士に相談をすることで、適切なアドバイスをもらえます。
また書類や手続きに関することだけでなく、保険会社とのやりとりや示談交渉についても任せられるので、負担の軽減にもつながるでしょう。
弁護士に依頼をすれば弁護士基準(裁判基準)で請求できるので、示談金が増額する可能性もあります。
納得できる形で示談金を受け取るためにも、実績の豊富な弁護士に相談をしてみましょう。
弁護士に相談するメリットについて詳しくはこちらの記事をご参照ください。
【まとめ】健康保険を使えば受け取れる慰謝料が増額する可能性もある
交通事故のケガの治療では、健康保険の利用が可能です。
健康保険を使うことで受け取れる示談金が増える可能性があり、高額療養費制度などの利用も行えます。
治療費に関する不安を少なくしてしっかりと治療を受けるために、必要な手続きを行うことが大切です。
しかし初めて交通事故に遭った場合は、保険の切り替え手続きをきちんと行えるのか不安を抱きやすいものです。
健康保険の使い方や手続き方法について困ったことがあれば、弁護士に相談してみましょう。
弁護士法人・響では、交通事故の解決実績豊富な弁護士が対応いたします。
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