
Bさん(47歳・女性)
経験したこと:自己破産
債務整理をした時期:約4年前
借金の総額:約7000万円(事業6000万・個人1000万)
世の中には、債務整理に対して「最後の手段」といったイメージが強くあります。 しかし債務整理は「終わり」ではなく、平穏な日々を取り戻す「再生の始まり」です。
この企画は、債務整理を経験した方々にお話をうかがい、どういった経緯で借金をするようになったのか、そして「そんな生活をいかに再建し、現在はどんな生活をしているのか」という部分にもフォーカスしたドキュメンタリーです。
※本企画は、債務整理をより多角的に理解してもらうことを目的としています。特定の手続き・成果を保証するものではありません
※弁護士法人・響で受任した案件ではありません
コロナ禍は多くの人々の生活を一変させましたが、特に事業を営んでいた方々にとっては壊滅的な打撃となりました。
今回紹介するBさんは、インバウンド向け民泊ビジネスで大成功をしていたにも関わらず、コロナによって事業が破綻し自己破産。総額7000万という巨額の負債を背負いつつも、なかなか自己破産を受け入れられず、苦悩のどん底から再生したそうです。
現在借金に悩んでいる人の中にも「自己破産はプライド的に抵抗がある」という人も少なくないでしょう。そんな人に希望を与える物語です。
※以下のコンテンツは、債務整理を経験した方に実際のエピソードをお聞きし「ご本人が語っている文体」として編集部が執筆したものです
目次
プロローグ
私は現在、スーパーバイザーとしていろんな企業の店舗管理などをしています。
少し前に体調を崩してしまったこともあって現在は週3日くらいの勤務ですが、そんな日々の中で、次のビジネスの構想を練っています。
詳しくは言えませんが、世の中の「とある需要」に対して、提供する店やサービスがない領域があるんです。今の目標は、その需要に応える店舗をオープンすること。昔から隙間産業を探すのが好きなんですよね。
生きがいとなっているのは、飼っている2匹のネコたち。自分のご飯よりもネコたちのご飯の方が大事だと思うほど、溺愛しています。あとは海外旅行も好きなので、「50歳までにボリビアのウユニ塩湖に行く」ということを決めています。

というわけで、現在はとても前向きな日々を送っている私ですが、実は過去に7000万円という大きな負債を抱えて自己破産をしたことがあるんです。
ビジネスが絶好調だったときに拡大しようとした事業が、すべての発端でした。
話は、コロナ前にさかのぼります。
インバウンド向けの民泊ビジネスで大成功。事業拡大を図ったそのとき…
もともと私は、メイクアップアーティストだったんです。
世の中から見れば少しニッチな領域のメイクだったのですが、ニッチだからこそ確実に需要もあり、けっこう忙しかったんですね。仕事としてはかなり順調で、お金はどんどん貯まっていきました。
そこで私は、とある街のマンションを1室買って、海外の観光客を宿泊させるビジネスをスタートしたんです。まだ「民泊」という言葉もまだ世の中に知られていなかった頃なので、民泊ビジネスの草分け的な感じだったと思います。
そんなビジネスを始めてみたところ、これが大人気になって。海外からの観光客は日本に長期滞在することも多く、20連泊してくれるようなことも普通にあるんですよね。メイクの仕事も続けてはいましたが、マンションからの収入はそれを軽く超えました。
そこで、資金が増えたタイミングで部屋数も増やし、ビジネスの規模としてもどんどん拡大していったんです。最初は地方都市で始めたのですが、順調に利益が出るので東京にも進出し、計11部屋くらいを保有していました。
さらにインバウンドの質も変わり高級志向になったりもしていたので、一軒家を借りて高級民泊もスタート。これはマンションの民泊よりも人気になって、事業はまさに順風満帆でした。私の最高月収は…はっきり覚えているんですが870万円もあったんですよ。「月収」で870万円です。
そんなわけで勢いづいていた私は、次の一手として新築マンションを1棟借り上げることにしたんです。これまでは部屋単位で運営していましたが、今後はそんな小さな規模ではなく、新築マンション一棟を丸ごと借り上げてビジネスを拡大しようと思ったんですね。
丸ごと一棟という交渉はなかなか大変だったのですが、どうにか2020年1月に許可が下りました。そして「半年間は必ず家賃を入れる」という条件で契約したところで…。
コロナ禍がやってきたんです。
私、最初は何とかなると思ったんです。もし借り上げたマンションがあまりうまくいかなくても、既存の民泊ビジネスの利益があるから、半年間の支払いはどうにかなるだろうと。
でも、コロナの状況は日を追うごとに悪い方へ進んでいき、2020年3月には空港閉鎖にまでなりましたよね。海外からの観光客がすべていなくなって、民泊ビジネスの利益が一切なくなってしまったんですよ。
もともとやっていたメイクの仕事も「対面で人にしてあげるもの」なので感染リスクが高いですし、不要な移動は控えるべきという社会的な雰囲気もあって、メイクのお客さんも一切いなくなってしまいました。
つまり、私の収入はゼロになってしまったんです。
その一方で、支払いの義務だけは残りました。一棟借り上げたマンションの家賃のほか、その他いろいろと借りたり買ったりしていた物件の支払いとして、毎月490万円を支払う必要があったんです。
毎月毎月、ただ息をしているだけでも490万円を払わなければならない。
突然そんな生活になって、私の生活は一変しました。もう必死で「お金をつくるためだけ」の生活が始まったんです。当時所有していた3台の車をはじめ、お金になりそうなものはすべて売って、家賃もずっと安いところに引っ越して、それまで外食しかしてなかったのに自炊に切り替えて…。
もちろん自分の生活費もままならないので、生活にかかるお金はすべてクレジットカードを使うようになり、引き落とし日にお金を用意できないのでリボ払いにして…。リボ払いなんて絶対にしたくなかったのに、するしかなかったんです。
私は比較的裕福な家庭で育ったこともあり「1,000円2,000円の支払いに困る」というのは人生で初めてのことでした。本当に、精神的に追い込まれていきましたね。
そして、最終的には消費者金融で借金もして、返済が滞るところまで行きました。いろいろなところから毎日、督促の電話がバンバンかかってくるところまで行きついてしまったんです。

弁護士のアドバイスも最初は受け入れられなかった
私は以前からよく役所に行くことが多かったので、役所でときどき弁護士の相談窓口が開催されていることを知っていたんです。
そこで、借金の状況を少しでもどうにかしたくて相談しに行くことにしたのですが…。
私、そんな状況になってもプライドだけはめちゃめちゃ高かったんですよ。自分がビジネスで大成功していたことに関して、とんでもなく自信があったんですよね。ですから、弁護士さんに言われることが受け入れられないんです。
役所で相談した弁護士さんは「自己破産しなさい」と言うんですが、私にとってはまったく受け入れられない話で。「私には稼ぐ力があるのに、なぜ自己破産なんて言われなきゃならないんだ!」という怒りしかないんです。
知人に紹介してもらった弁護士事務所でも相談をしたのですが、やはりそれは同じでした。
最初に出てきた弁護士さんからは上から目線でものを言われたこともあって、腹が立ってケンカしてしまったんですよ。今にして思えば、弁護士さんの言ってることが正しいのもわかるのですが、当時の私はプライドがとんでもなく高かったので…。
ただ最終的に、その事務所の別の弁護士さんと面談をしたときに、心が変わりました。
その弁護士さんは女性だったのですが、私のスマホの待ち受け画面がネコの写真だったのを見て、まずネコの話から始めたんですよね。そこからだんだんと気持ちをほぐしてくれて、自分の置かれている状況を説明してくれました。
「あなたは周りが見えてない。今あなたは、自分に稼ぐ力があると思ってるかもしれないけど、あなたの財務状況は普通の人以下なんです。事の重大さがわかってない」って…。
私、自己破産をしたときの債務総額は7000万円を超えていたんですよ。事業で6000万円、個人の借金として1000万円以上の債務がありました。
そんなとんでもない額なのに、私は「稼いで返す」などと当然のように思っていて、その考えを否定されると怒り出していた。弁護士の先生はそんな私の様子を見て、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っているのを見抜いていたのかもしれませんね。
実は当時、私の身近な人にとてもショッキングな出来事があったんです。
ただでさえ督促の電話が鳴りまくる毎日にノイローゼになっていたのに、そんなショッキングな出来事もあって。当時の私は本当にもう…精神的におかしくなっていたんですよね。弁護士の先生と面談しているときも言ってることがおかしかっただろうなと思うし、そんな受け答えを見て、先生は私の状態を見抜いていたのだと思います。
そして「今の状況を考えると、PTSDとして生活保護を受け、自己破産をするしかない」ということを提案してくれました。そして「決心してください」と。
そこでようやく心が折れて、自己破産を受け入れることになったんです。
結局私は、PTSDによって1年半の生活保護を受けることになりました。そして自己破産の方も、私が精神的に不安定であるという理由から弁護士の先生が代理人に立ってくれたので、私自身が裁判所に行くこともないまま、免責が下りました。
弁護士費用については法テラスの制度を利用することになり、弁護士費用も立て替えてもらうことができました。
収入や資産が一定基準以下の人は、弁護士費用について法テラスの立替制度を利用できる可能性があります。基本的には弁護士費用を分割で法テラスに返済しますが、生活保護の受給者は、費用の返済が免除されることもあります。
自己破産を経て、自分の生き方や価値観が変わった

私は自己破産をして、生き方や価値観が変わりました。
事業が絶好調だったときは、まるでマンガみたいに生活水準を上げた暮らしをしていたんです。高級マンションに住んで高級外車に乗り、ブランドものの時計やネックレスなどもめちゃくちゃ買っていました。
「同世代の中で、自分が一番いいものを持っていたい」という思いがすごくあったんです。
でも今は、住むところは公営住宅でいいなと思ってますし、腕時計なんか「腕は2本しかないのに時計を何十個も持っていても意味がない」と思ってます。欲しい気持ちを我慢してるのではなくて、本当にいらないんです。
あとは「人間関係の断捨離」ができたことも良かったと思っています。
以前の私は交友関係も広かったんですが、やっぱりその中には「私がお金を持っているから寄ってきている人」が多かったんですね。
そういう人たちは私が落ち目になったら噂話をするのもわかりきっていたので、一切連絡を取らなくなったのですが、それは間違ってなかったと思います。
一方で悔しいのが「これから5~7年くらいは社会的な信用がないんだな」という事実ですね。
債務整理をすると、一定期間はいわゆる「ブラックリストに載る」状態になります。自己破産の場合、5年~7年間はブラックリストに載るため、ローンを組んだりクレジットカードを持ったりできなくなります。
私が事業をやっている人間でなかったら感覚は違ったのかもしれません。でも私は事業をしていたので「社会的な信用がない」というのはしんどいです。
でも、私が人に迷惑をかけたお金は決して少なくないのも事実なので。迷惑をかけてしまった人たちが、また私を信用してくれるくらい、ちゃんと元に戻ろうと強く思います。
あと私には姪っ子がいるんですが、その子にもカッコ悪いところは見せられないので、がんばりたいと思いますね。
もし私と同じように、債務を抱え悩んでいる人がいたとしたら、ぜひ弁護士に相談してほしいなと思います。プライドが高い人は、友人や肉親にアドバイスされても聞く耳を持たなくなりがちですが、弁護士はあなたの友人でも親でもないからこそ、客観的に話を聞いてくれます。
プライドに縛られず「自分は債務者だ」という事実を素直に受け入れることができれば、あとは解決に向かっていくと思うんですよね。
私は7000万の負債を抱えて自己破産しましたけど、世の中には1000万にもいかない借金を苦にして命を絶ってしまう人もいます。
そういうニュースを見ると「生きてさえいたら何とかなるのに」って、本当に思うんですよ。もちろん、命を絶つほど精神的に追い込まれてしまう状況はよくわかります。私も、こういう境地に到達するまで1年半かかったので…。でも、再起することは可能なんです。
生きている限りはどうにかなります。ぜひ一歩を踏み出してほしいなと思いますね。
インバウンド向けの民泊ビジネスを、世の中に先駆けてスタートさせたBさん。コロナが収束した現在、訪日外国人旅行者が過去最高に達しているところを見ると「コロナさえなければBさんの人生はまったく違っただろうに…」と思わずにいられません。
しかしBさんは自己破産を経て、性格も考え方もいい方へ変わったといいます。Bさんは借金に追われ、どん底の苦悩を経験することになりましたが、その経験が無意味だったかというと、決してそんなことはないと感じました。
現在のBさんは、すべてを乗り越えて前を向いています。Bさんのビジネスの才覚と、自己破産を乗り越えた経験があれば、再び世の中で活躍する日が来るのは間違いない。そんなことを確信するインタビューでした。


