分別の利益とは?保証人と連帯保証人での違い、奨学金の裁判例も解説

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分別の利益とは、主債務者に代わって複数の保証人が返済を行う場合、保証人の人数で按分した金額を支払えばよいとされる権利です。

この権利は保証人には認められているものの、連帯保証人には認められていません。

保証人・連帯保証人になっている場合、知っておくべき権利の一つだといえるでしょう。

また、分別の利益という言葉は奨学金の支払いに関する裁判でニュースにも取り上げられ、話題になりました。

そこでこの記事では、分別の利益とは何か、連帯保証人と保証人の違いとあわせて、奨学金返済の分別の利益をめぐる裁判例についても解説します。

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目次

分別の利益とは?

分別の利益とは何か、具体例とあわせて解説します。

分別の利益は「保証人の数で割っただけの金額を払えばよいという権利」のこと

分別の利益とは、主債務者(貸金契約などをした契約者本人)に代わって複数の保証人が返済を行う場合、それぞれの保証人は、その人数で割った分だけの金額を支払えばよいとされる権利です

民法第427条、第456条が根拠とされており、それぞれ以下のような条文です。

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(分割債権及び分割債務)
第四百二十七条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

(数人の保証人がある場合)
第四百五十六条 数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第四百二十七条の規定を適用する。

出典:民法 _ e-Gov法令検索

具体的にどのようなものか、下で見てみましょう。

分別の利益の例

たとえば、夫婦のうち妻が主債務者として借り入れ、夫がその保証人となっていた場合を考えてみましょう。

もしも妻が600万円を残して返済不能に陥った場合、債権者(お金を貸した側)は夫に返済を求めます。

しかしこのとき、妻の父親がもう一人の保証人となっていた場合、保証人には分別の利益があるため、夫と父親は、300万円ずつ支払えばよいことになります

分別の利益のイメージ

もし、夫が債権者から600万円の全額の返済を求められた場合、分別の利益を主張し、「300万円は妻の父親に請求してほしい」と求めることができるのです。

分別の利益がないケースもある

分別の利益は保証人にのみ認められたもので、連帯保証人、連帯債務者には認められていません。

それぞれのケースについて解説します。

連帯保証人の場合

連帯保証人は、主債務者本人と同等の返済義務を負う保証人です。

基本的に主債務者が返済不能になった場合に、代わって返済することになります。

この際、連帯保証人には分別の利益が認められていないため、原理的には、連帯保証人が複数人いる場合でも、連帯保証人全員が全額の返済を求められることになります。

夫婦のうち妻が主債務者として借り入れ、夫がその連帯保証人となっていたとしましょう。

もし妻が600万円を残して返済不能に陥った際には、夫に600万円の返済が求められます。

このとき、妻の父親がもう一人の連帯保証人となっていた場合、連帯保証人には分別の利益がないことから、夫にも父親にも、600万円が請求されることになります

連帯保証人のイメージ

ただし、夫が600万円を返済した場合は、父親の600万円の返済義務はなくなります。

ちなみに、このケースで夫は保証人で、父親のみが連帯保証人であった場合、夫には分別の利益が認められるため、返済が必要な金額は300万円です。

連帯保証人の父親は、600万円の返済を求められます。

連帯保証人については、以下の記事で詳しく解説しています。

連帯債務者の場合

連帯債務とは、複数の債務者が一つの債務を一緒に負うことを指します。

連帯債務の場合、連帯債務者が主債務者と連帯して同一の債務を負う、ということになり、連帯債務者は主債務者と同一の立場であるといえます。

連帯債務者が何人いたとしても同じ債務を負っていることになるため、分別の利益は認められません

ただし、債務を共同で負っている連帯債務者のうち誰かが全額返済すれば、他の全員は債務から逃れることができます

連帯債務者のイメージ

たとえば、夫婦2人が連帯債務者として600万円の借り入れた場合、どちらかが600万円を完済するまでは夫も妻もどちらも600万円を返す義務を負います。

そして、完済まで、債権者はどちらに対しても返済を求めることが可能です。

しかし、どちらかが600万円を返済すれば、その時点で、もう1人が負っていた返済義務も消滅することになります。

たとえば夫婦で収入の合算をして住宅ローンなどの借入れを行う場合などには、連帯債務者となることが条件になっていることがあります。

保証人と連帯保証人の権利の違い

同じ「保証人」に見える保証人と連帯保証人ですが、連帯保証人には、分別の利益以外にも「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」がないという違いがあります。

保証人が負う返済義務(保証債務)にはあくまで主債務者が返済不能となったときに初めて履行しなくてはいけなくなる、という性質(補充性)があるとされます。(民法第446条

借金の保証人については以下の記事で詳しく解説しています。

対して、連帯保証人が負う返済義務(連帯保証)にはこの補充性がありません

連帯保証人は主債務者と同等に返済を求められたり、差し押さえられたりする立場にあるのです。

「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」について、それぞれ解説します。

催告の抗弁権

催告の抗弁権とは、債権者から保証人が返済を求められたときに、「自分よりまず主債務者本人に請求してほしい」と主張できる権利です。(民法第452条

保証人は、債権者に支払いの請求を受けた際に、まず債務者本人に請求するよう求めることができます。

​​対して、連帯保証人は、先に返済を求められたとしても、それを拒否できません。

催告の抗弁権を持たないことによって、連帯保証人は、債権者にとって「主債務者と同様に返済を求めることができる相手」となるのです。

検索の抗弁権

検索の抗弁権とは、債権者に対し、自分よりも先に主債務者本人の財産をまず差し押さえるよう主張できる権利のことです。(民法第453条

保証人は検索の抗弁権を持つので、主債務者・保証人ともに支払い不能となった際には、まず主債務者本人の資産や収入を差し押さえるよう求めることができます。

一方、連帯保証人は主債務者に対してより先に差押えの手続きを取られたとしても、それを止めることができないのです。

検索の抗弁権を持たないことによって、連帯保証人は、債権者にとって「主債務者と同様に差押えによって債務を回収することができる相手」となります。

日本学生支援機構の奨学金をめぐる裁判例について

日本学生支援機構(JASSO)による奨学金の回収方法をめぐる裁判で、2022年5月19日に札幌高裁からJASSO側に敗訴判決が出たことが大きく報じられました。

この裁判は、保証人に全額返済を請求し、支払いを受けていたのは違法だとして、北海道内の保証人ら2人が返金・損害賠償を求めて起こしたものです。

この裁判において、争点は以下の2点だったといえます。

  • 分別の利益を超えた保証人の支払いは、JASSOの不当利得(法律上、正当な理由がないにもかかわらず、他人の財産によって利益を得たこと)になるか
  • JASSOが保証人に残金全額の請求をすることが不法行為に該当するか

これらについて「分別の利益」の知識も踏まえながら解説します。

1.分別の利益を超えた保証人の支払いは、JASSOの不当利得になるか

結論からいえば、判決では、保証人が分別の利益を超えて支払ったお金は、JASSOの不当利得になるとされています

そもそもJASSOの奨学金は、借入れの際に連帯保証人1名、保証人1名がそれぞれ保証を行うことになっています。(機関保証を設定する場合を除く)

主債務者が奨学金を返済不能になった場合、分別の利益がある保証人の負担額は、残債の2分の1でよいはずです。

しかしJASSOは、保証人に対しても「あなたは分別の利益を主張できる」ということを伝えずに残債の全額を請求し、保証人が分別の利益を主張した場合のみ、請求の減額に応じていました

これについてのJASSO側の主張は「分別の利益は保証人が主張をしてはじめて効果を発揮するものであるはずだ」というものでした。

しかし札幌高裁の大竹優子裁判長は「保証人が、手続きをせずとも保証人の数で分割された額についてのみ返済の債務を負うことについては、ほぼ異論は見られない」としています。

よってJASSOは、本来の負担割合を超えた保証人の支払いを「本来であれば受け取れない(法的に不当な)利益である」と認識しながら受けた「悪意の受益者」というべきであると指摘しました。

そのため、保証人が本来の義務より超過して払っていた金額に利子を加えた、計約200万円を支払うようJASSOに命じたのです。

この裁判で「分別の利益を主張(行使)する手続きなどはなくても、保証人の返済額は分割されるもの」という見解が確立したといえるでしょう。

JASSOの奨学金の保証人として全額返済をした方へ

判決を受け、JASSOはこれまで保証人から過剰に取り立てていた返済金の返金対応に当たるとしています。

もし奨学金の保証人となって、過去に全額返済を行っていた当事者の方がいれば、当機構の案内を参照し、返還手続きなどを行うようにしてください。

参考:「札幌高等裁判所判決を踏まえた今後の保証人への対応について _ JASSO

JASSOが保証人に残債の全額の請求をすることが不法行為に該当するか

JASSOが保証人に残債の全額の返済を求めたこと自体は「独立行政法人日本学生支援機構に関する省令」の28条ないし31条に基づいており、適法の範囲とされました。

よって、原告への損害賠償は認めない、という判決となっています。

今後も、他の例で保証人に全額の返済が請求される可能性はゼロではないといえます。

保証人になるにあたって、分別の利益について知っておくことは重要といえるでしょう。

参考:裁判例結果詳細 _ 裁判所 - Courts in Japan

借金の保証人・連帯保証人になって困っている人は、弁護士に相談を

借金の保証人・連帯保証人は、主債務者が返済できなくなったときに代わりに返済を行う立場にあります。

特に連帯保証人になっていると以下の権利が認められず、主債務者と同等の返済義務を負うことになります。

  • 分別の利益:主債務者に代わって複数の保証人が返済を行う場合、保証人の人数で割った金額を支払えばよいとされる権利
  • 催告の抗弁権:債権者に対し、自分よりも先に主債務者本人に請求することを求められる権利
  • 検索の抗弁権:債権者に対し、自分よりも先に主債務者本人の財産をまず差し押さえるよう主張できる権利

保証人や連帯保証人になって多額の借金を返さなくてはいけなくなって困っている場合、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか

弁護士は法律、実務双方についての知識を持っています。

それぞれの状況に合わせ、問題解決方法を提案してくれるでしょう。

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[実績]
43万件の問合せ・相談実績あり
[弁護士数]
43人(2023年2月時点)
[設立]
2014年(平成26年)4月1日
[拠点]
計7拠点(東京、大阪、香川、福岡、沖縄)
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