時効の中断(更新)とは、法律で定められた一定の事由があると、進行していた時効期間の効力が失われること(時効期間のカウントがゼロに戻ること)を言います。
また、時効の停止(完成猶予)という、法律で定められた事由が発生すると、一時的に時効の完成が阻止される(時効期間が経過してもしばらくの間時効が完成しないこととなる)制度もあります。
時効の中断(更新)や停止(完成猶予)の事由には、おもに以下のようなものがあります。
- 裁判上の請求
- 支払督促
- 和解および調停の申立て
- 破産手続参加、再生手続参加または更生手続参加
- 強制執行
- 担保権の実行、担保権の実行としての競売
- 財産開示手続または第三者からの情報取得手続き
- 仮差押え、仮処分
- 催告
- 協議を行う旨の合意
- 債務者による債務の承認
- 天災その他避けることのできない事変
2020年の民法改正で時効の中断(更新)などがどう変わったかもあわせて、詳しく解説します。
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目次
時効の中断(更新)と時効の停止(完成猶予)とは?
時効の中断(更新)と時効の停止(完成猶予)は、「消滅時効」に関して民法に定められた仕組みで、それぞれ以下のような内容です。
- 時効の中断(更新):法律で定められた事由が発生すると、進行していた時効期間の効力が失われる(時効期間の進行がリセットされて再度ゼロからカウントが始まる)という仕組み
- 時効の停止(完成猶予):法律で定められた事由が発生すると、一時的に時効の完成が阻止される(時効期間が経過してもしばらくの間時効が完成しないこととなる)という仕組み

そもそも、「消滅時効」とは、債権者(お金を貸した側)が債務者(お金を返す必要がある側)から借金などの債権を回収する権利を行使しないまま一定期間が経過した場合に、その権利を消滅させるという仕組みです。(民法166条)
借金の消滅時効については以下の記事で詳しく解説しています。
支払期日または最後の支払いから5年または10年たつと、債務者は、時効援用手続きを取ることで、時効を成立させることができます。(※)
ただし、過去に時効が中断(更新)されたことや、停止(完成猶予)されている場合には、時効期間が過ぎても時効が成立しないことがあるのです。
加えて、時効の中断、停止(更新、完成猶予)があると、時効のカウントは原則何回でもリセット、ストップされます。
つまり、事実上永久に時効が成立しないこともありえるのです。
※ 債権の種類や状況によって時効期間が異なるケースもあります。
時効の中断と停止(更新と完成猶予)は民法改正でどう変わった?
2020年4月1日に行われた民法改正で、「時効の中断」は「時効の更新」に、「時効の停止」は「時効の完成猶予」に、それぞれ構成され直しました。
旧民法では「中断」という言葉がもつ意味と「時効のカウントがゼロに戻る」という効果の内容にずれがあり難解でしたが、改正により、言葉の意味と効果が一致したといえるでしょう。

さらに2020年の民法改正では、「債権者・債務者間の協議」が時効の完成猶予事由として新たに加えられるなど、更新、完成猶予が起きる原因となる事柄(時効の更新事由、完成猶予事由)が整理、改正されています。
なお、消滅時効の時効期間についても変更があり、よりシンプルな考え方に統一されました。
時効の中断、停止事由(更新、完成猶予事由)とは?
時効の中断(更新)や停止(完成猶予)が起きる原因のことを、「時効の中断事由(更新事由)」「中断の停止(完成猶予)」と呼び、民法第147条〜第152条および第161条に以下のとおりに定められています。
条文 | 事由 |
---|---|
147条 | ・裁判上の請求 ・支払督促 ・和解および調停の申立て ・破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加 |
148条 | ・強制執行 ・担保権の実行 ・担保権の実行としての競売 ・財産開示手続または第三者からの情報取得手続き |
149条 | 仮差押え、仮処分 |
150条 | 催告 |
151条 | 協議を行う旨の合意 |
152条 | 債務者による債務の承認 |
161条 | 天災その他避けることのできない事変 |
以下で詳しく解説していきます。
裁判上の請求(第147条1項1号、2項)
裁判上の請求とは、債権者による訴えのことをいい、金銭の支払いを求める「給付の訴え」や、債権があることを確定させる「確認の訴え」などが挙げられます。
債権者が訴状を裁判所に提出した時点で、時効の停止(完成猶予)の効果が生じます。
そして、 確定判決などによって権利が確定したときに、時効の中断(更新)の効果が生じます。
支払督促(第147条1項2号、2項)
支払督促とは、返済を滞納している債務者に対して、訴訟によらず金銭の支払いを命じるための手続きで、確定すると時効が中断(更新)されます。
簡易裁判所に申し立て、裁判所から債務者に対して送付されます。
支払督促の後、債務者からの返済や異議申立てがなく2週間が経過すると、債権者は裁判所に仮執行宣言を申し立てることができます。
それが認められると、「仮執行宣言付支払督促」が債務者に送付されます。
さらに債務者からの返済や異議申し立てがなく2週間が経過すると、支払督促が確定となり時効は中断(更新)となります。
支払督促を受けて、和解・調停が成立したときも同様です。
支払督促については以下の記事で詳しく解説しています。
和解および調停の申立て(第147条1項3号、2項)
和解の申立てとは、民事訴訟法第275条に定められる「訴え提起前の和解」の申立てのことです。
調停の申立てとは、「民事調停の申立て(民事調停法第4条2項)」「家事調停の申立て(家事事件手続法第255条)」を指します。
これらの申立てを行い、和解、調停が成立した場合、時効の中断(更新)の効力が生じます。
なお、和解や調停において、相手方が出頭しなかったときや、その和解や調停が不調に終わったときは、終了後6ヶ月の時効の停止(完成猶予)の効力のみが生じます。
ただし、猶予期間中に訴えを提起された場合、時効の中断の効力が生じる可能性があがります。
破産手続参加、再生手続参加または更生手続参加(第147条1項4号、2項)
「破産手続参加、再生手続参加または更生手続参加」とは、債務者が破産手続・再生手続・更正手続を行った際、債権者がそれぞれ破産債権の届出・再生債権の届出・更正債権の届出を行うことを指します。
こうした手続きの届出が裁判所に認められると、時効が中断(更新)されます。
ただし、債権者が届出を取り下げたり、裁判所に届出が却下されたりした場合には、終了後6ヶ月間の時効の停止(完成猶予)のみが生じます。
強制執行(第148条1項1号、2項)
強制執行手続が取られると、執行の終了まで時効の完成が猶予され、終了と同時に時効が中断(更新)されます。
なお、取り下げなどで事由が終わった場合は終了から6ヶ月間、時効が猶予されることになります。
強制執行手続とは、確定判決や仮執行宣言付支払督促などを得た債務名義に基づき、債務者に対して裁判所が強制的に財産の差押えを行う手続きです。
(仮執行宣言付支払督促が出されるまでについては「支払督促(第147条1項2号)」で解説しています)
強制執行では、債権の回収を行うため、債務者の預貯金、財産などが差し押さえられたり、建物や物の引き渡しが行われたりします。
差し押さえについては以下の記事で詳しく解説しています。
担保権の実行(第148条1項2号、2項
担保権の実行手続きとは、抵当権など、債権に担保が設定されているとき、これを実行して債権者が債権を回収する手続きのことです。
担保権の実行が行われると、上で解説した強制執行と同じく、 執行の終了まで時効の完成が猶予され、終了と同時に時効が中断(更新)されます。
なお、取り下げなどで事由が終わった場合は終了から6ヶ月間、時効が猶予されることになります。
担保権の実行としての競売(第148条1項3号、2項)
債権に担保が設定されている際、担保権を実行して債権を回収する方法の一つに、競売があります。
担保権の実行として競売が行われた場合、執行の終了まで時効の完成が猶予され、終了と同時に時効が中断(更新)されます。
取り下げなどで事由が終わった場合は終了から6ヶ月間、時効が猶予されます。
財産開示手続または第三者からの情報取得手続(第148条1項4号)
「財産開示手続」または「第三者からの情報取得手続」が行われると、 執行の終了まで時効の完成が猶予され、終了と同時に時効が中断(更新)されます。
「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」は、債権者が債務者の財産を差し押さえ、債権を回収する際、差し押さえることのできる財産を明確にするための手続きです。
- 財産開示手続…債務者が財産開示期日に裁判所に出頭して、債務者の財産状況を陳述する手続き(民事執行法第196条〜第203条)
- 第三者からの情報取得手続…債務者の財産に関する情報を、債務者以外の第三者(銀行や信用金庫などを含む)から提供してもらう手続き(民事執行法第204条〜第211条)
これらの手続きの申し立てが取り下げられた場合などは、取り下げなどから6ヶ月間、時効が猶予されます。
仮差押え、仮処分(第149条1項、2項)
仮差押えや仮処分について、裁判所から申立てが認められた場合は、仮差押えや仮処分が終了したときから6ヶ月間は時効が停止(完成猶予)となります。
仮差押えとは、債権者が借金などの金銭債権を回収するために、その原資となる預金債権や不動産などの移転を債務者にさせないようにする手続きです。
仮処分は、債権者が借金などの金銭債権以外の債権を回収するために、債務者の有する財産を相手方が勝手に処分しないようにする手続きのことをいいます。
催告(第150条)
催告とは、口頭または書面で債権者が債務者に対して支払いを請求することで、6ヶ月時効の停止(完成猶予)させる効果があります。
借金やクレジットカードの支払いなどを長期間滞納すると、債権者から債務者に「催告書」という書面が送られてきます。
一般的に、催告書には最終勧告の意味があり、返済がなかった場合は裁判などの法的措置を講じるという内容が記載されています。
特に、催告書が内容証明郵便により送られてきた場合は債権者が法的手段に出る可能性が高いといえるかもしれません。
この内容証明郵便は、「いつ、どのような内容の書面を、誰から誰あてに送られたものか」を日本郵便が証明するものであり、法的な証拠として有効であるためです。
催告書については以下の記事で詳しく解説しています。
協議を行う旨の合意(第151条)
借金についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合は、以下のうちもっとも早い時期までの間、時効は停止(完成猶予)となります。
- 合意から1年
- 合意で取り決めた協議期間(1年以内)
- 当事者の一方から協議を打ち切る通知がされたときは、それから6ヶ月
債務者による債務の承認(第152条)
債務者が債務を承認した場合、時効の進行は中断(更新)されます。
債務の承認は、債務者が債権者に対して債務の存在を認めることをいい、以下のようなものがあります。
- 請求によって債務の一部を支払う行為
- 請求によって債務を認める念書を交わす行為
- 請求によって債務の返済猶予を求める行為など
特に注意が必要なのは、返済の猶予を求めてしまう行為です。
督促の電話などを受けると、「来月には必ず支払います」「もう少し待ってもらえませんか?」といった返答をしてしまいがちです。
すると、口頭であっても債務を承認したことになってしまうことがあるため、その時点で時効のカウントがリセットされてしまいます。
債務の承認については以下の記事でも詳しく解説しています。
天災その他避けることのできない事変(第161条)
時効の成立前に天災、戦争などの避けられない事象が起き、時効を中断(更新)させる手続きなどに支障が出た際は、天災や戦争などにともなう障害が解消されてから3ヶ月経過するまで、時効の停止(完成猶予)が起きます。
なお、この猶予期間は旧民法では2週間だったため、民法改正による変更点の一つでもあります。
時効の中断、停止(更新、完成猶予)があったか調べるには弁護士に相談を
これまで見てきたとおり、時効の中断、停止(更新、完成猶予)が起きる理由には、以下のようなものがあります。
- 裁判上の請求
- 支払督促
- 和解および調停の申立て
- 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
- 強制執行
- 担保権の実行
- 担保権の実効としての競売
- 財産開示手続または第三者からの情報取得手続き
- 仮差押え、仮処分
- 催告
- 協議を行う旨の合意
- 債務者による債務の承認
- 天災その他避けることのできない事変
債務者が「時効の援用手続き」を取る際、過去にこれらの事由によって時効が中断(更新)もしくは停止(完成猶予)されたかどうかを自力で確認することは簡単ではありません。
例えば、住所が変わって、訴状が届いているのに気づかなかった場合などは、知らない間に「裁判上の請求」がされ、その請求に係る判決が確定してしまっており、時効が中断(更新)されているケースがあるのです。
時効の援用については以下の記事で詳しく解説しています。
弁護士に依頼すれば、時効の中断、停止(更新、完成猶予)が起きていないかをチェックしてもらい、時効援用の手続きを代理で行ってもらえます。
無料で相談できる弁護士事務所もあるので、まずは気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
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- ご自身の返済状況から、時効が成立するか判断します
- 時効成立までのお手続きをサポート!
- 成立が難しい場合、他の返済方法を相談できます